次世代のために意見のキャッチボールを――移り変わる時代に、サザン桑田佳祐が音楽で生む「コミュニケーション」
「マッチョ」な時代じゃなくなった
現在67歳の桑田がサザンでデビューしたのは1978年、22歳の時だった。45年の間に、日本という国の雰囲気も「変わった」と感じている。 「人間の感情そのものは今も昔も変わらないけど、近頃は3日も経つと世の中の話題や雰囲気がガラリと変わるじゃないですか。だからSNSもYouTubeもほどほどに見ながら、勉強させてもらっているところはありますけど」 時代の空気は、当時の曲にも反映されてきた。 「昔の自分たちの動画などを見ると、我ながら恥ずかしいものがたくさんある。どこか履き違えていたというか、妙に自信を持っちゃっていた時期もあってね。80年代、90年代ってみんな今よりマッチョでイケイケだった。『最近、香港行って中華食うのにハマってるよ』とか、『この間、ロンドンの有名プロデューサーと仕事したんだ』みたいな感じでね。仕事も1分1秒に追われていた。ちょっと周りにデキない奴がいたら『グズグズするな。だからお前は駄目なんだよ』なんて偉そうにマウントを取ったり叱り飛ばしたりしてね。今は少しでもお互い寛容でいよう……なんてずいぶん丸くなったものだけど(笑)」 「国家とか国力の雰囲気も昔とは違う。震災やコロナと、日本人は何度かぴしゃん、ぴしゃんと心を折られてきた。今の若い人たちがどんな夢を持っているのか、僕には詳しく分からないけど、僕自身は『今の夢は?』なんて聞かれても、明日明後日のことで精いっぱい(笑)。そういう気持ちが自分の音楽にも反映されていると思うし。ただ、今の日本のムードは、新たなスタートダッシュをかける前の“セットアップタイム”(準備期間)だと僕は思いたいんですね」 今のムードだからこそ、生まれる歌詞もある。 「僕らがデビューした頃とは人の寿命も変わった。石原裕次郎さんと美空ひばりさんなんて52歳でお亡くなりになっている。今やサザンのファンには70代の方もいる。『老いてなお青春』なんて言葉が、ある意味歪(いびつ)に重くのしかかる。我々よりも少し若い世代の方でも、親御さんの介護にご苦労されている人などもいっぱいいるし、それぞれ皆さん酸いも甘いも踏まえておられるんじゃないかな。『盆ギリ恋歌』(7月配信の新曲)ではお盆を題材にしたけど、これも若い頃の自分だったら書かなかった。お盆や彼岸を、以前よりも身近に感じるようになったから。リスナーと一緒に年を取って、皆さんと交わすコミュニケーションの探求も、ちょっと面白い段階に入ったというか。新旧の歌詞の一字一句が、ここに来てより大事になってきました」