次世代のために意見のキャッチボールを――移り変わる時代に、サザン桑田佳祐が音楽で生む「コミュニケーション」
次世代のために、曲で意見のキャッチボールを
明治神宮外苑を管轄する明治神宮は、民間の不動産会社らと共同で、老朽化したスポーツ施設の建て替えや高層ビル3棟の建設、災害時の拠点を兼ねる公園整備などを計画している。再開発工事が樹木の大量伐採につながることなどから計画を疑問視する声や批判の声が上がり、今年5月時点で19万筆を超える反対署名が東京都に提出されている。 「周りの若いスタッフにも『君らはどう思う?』と相談してみたんですよ。僕のノスタルジーよりも、僕がいなくなった後、街を見て、暮らしていくのは彼らですから。するといろいろと調べてくれて。元々は風致地区(自然的景観を維持するために定められたエリア)だったのに、いつの間にか規制が緩和されていたとか。神宮外苑は所有者である明治神宮が維持費を負担しているという事情とか、そういうことを知っていくと、もう少し話し合いや議論を深めたほうが、将来の人たちのためになるんじゃないの?と思ったんですよね」 同じ頃、曲の制作中にあるフレーズが生まれた。 「僕の場合はいつもメロディーが先で、仮歌の段階では『馬鹿でごめんよ』という言葉だけが口をついて出ていた。こりゃ茶目っ気のある恋愛ソングにでもなるのかな?と思ったんだけど、この話題に触れていくうちに、だんだんとそっち寄りの言葉が加わっていった。坂本さんの音楽になくて唯一サザンにあるものは“歌詞”なのかな、と思って。言葉を使う生業(なりわい)として、坂本さんの思いのリレーになればと思いました」 桑田は曲を完成させる前に、「こんな曲を書こうと思う」という自分の意志を短い文章にまとめてスタッフに送った。 「45年で初めてだったんじゃないかな。こういう曲を書こうと、あえて段取りを組んで『これで行くね』と彼らに知らせた。何らかの誤解やハレーションを起こすかもしれないと思ったから」
ラジオで初オンエアされた曲に対するメディアの反応は桑田の想像をはるかに上回り、SNS上にも賛否の声が上がった。 「僕はエンターテインメントの世界の人間だから、別に『ショービジネスじゃないか』と言われてもいい。それでも“音楽屋”として、この話題は引き継いでおくべきなんじゃないかと思った。ちょっと大げさかもしれないけど、こういう動きをすることで、日本の音楽界を違う角度から盛り上げられないかな?という思いもありました。たまには“うねり”を生んでもいいんじゃないかって」 「(計画に)賛成とか反対とかじゃなくて、みんなで意見のキャッチボールが出来るようなキッカケの曲になればというのが僕の思いだった。少しでもコミュニケーションが出来て、議論が深まってくれればいいなと」 再開発の工事はすでに始まり、9月下旬からは樹木伐採の着手も予定されている。しかし9月7日、ユネスコの諮問機関「イコモス」が緊急要請「ヘリテージ・アラート」を出し、事業者や東京都に計画の撤回などを求めた。また、東京都は神宮外苑地区の再開発事業を進める事業者に対し、具体的な説明や樹木の保全に関する見直し案を示すように要請。今も計画をめぐる動向には注目が集まっている。 「僕みたいに、この計画をよく知らなかった人もまだ多かったと思う。だからこの曲が多少なりともメディアや世論に引っかかってくれればそれで十分。あとは坂本さんが怒ってなきゃいいなって(笑)。僕は何を言われても、もうジジイだからいいの(笑)」