城めぐりをさらに楽しくする一冊―三浦 正幸『図説 近世城郭の普請 石垣編』
日本各地の城を訪れたときに、どこに注目しますか? 天守? 櫓? 城門? 御殿? 石垣に注目してみてはどうでしょう。見方を知れば、それぞれが極めて個性的なのです。城郭建築研究の第一人者が、多くのカラー写真とともに詳細に解説した書籍『図説 近世城郭の普請 石垣編』から、おわりにを紹介します。 ◆石垣なんてどの城も同じ……ではもったいない 近世城郭の多くには壮麗な天守があり、天守以外にも櫓や城門あるいは御殿などの建造物があった。それらの建造物は、城ごとに個性的であって規模形式や意匠が全く同じである例はない。特に城の象徴となった天守の個性は際立っていて、近代の稚拙な模擬天守はさておき、どの天守の写真を見ても一目でその城名を言い当てられる人は多いであろう。ところが、近世城郭のもう一つの見どころである石垣については、扇の勾配として著名な熊本城や壮大な大坂城はともかく、どれもこれも同じように見えてしまう。 しかし、石垣の特徴について詳しく知れば、全国の城の石垣はそれぞれ極めて個性的に見えてくるはずである。石垣の見どころは多様である。大坂城や伊賀上野城などの超絶的な石垣は、離れて見てもその壮大さから生まれる迫力があり、天守を見た以上の感動が得られよう。 石垣を間近で見られるところでは、注意して観察すると、築石の種類、大きさ、形状、並べ方に違いが見えてくる。石垣の隅部においてはさらに個性的であって、算木積であるかないか、算木積にしても未発達なものから次第に完成期に近づいていくもの、退化したものなど千差万別である。 築石の表面加工の違いから、それを担当した職人の人となりが見えてきそうでもある。石垣に加えられた職人の遊び心も見逃せず、それを見つけ出してあげたら、担当した職人の思いが伝わってくるであろう。 さらには、築石に残る矢穴や刻印、墓石などの転用石を見つけられる。また石垣の増築や改築の痕跡を発見したら、なお興味が増す。 日本の近世城郭が天守・櫓・城門だけではなく石垣を含めて総て個性的であることに気づけば、城を訪れる楽しみは倍増すること間違いなしである。 [書き手]三浦正幸(日本建築史・城郭史研究者) [書籍情報]『図説 近世城郭の普請 石垣編』 著者:三浦 正幸 / 出版社:原書房 / 発売日:2024年04月23日 / ISBN:4562074086
原書房
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