知る人ぞ知るポップアート作家、トム・ウェッセルマンがパリを席巻! 取引額の高騰なるか?
知る人ぞ知るポップアート作家
ウェッセルマンの回顧展では、彼と同世代のポップアート作家と、今をときめく現代アート作家の作品も同時に展示するという巧妙なアプローチが用いられていた。序盤の展示スペースには、2022年のクリスティーズ・ニューヨークで1億9500万ドル(当時の為替で約253億円)で落札されたアンディ・ウォーホルの《Shot Sage Ble Marilyn》が展示されていた(この作品の持ち主であるラリー・ガゴシアンも展覧会のオープニングイベントに参加していた)。また、大物コレクターのスティーブン・コーエンが1億1000万ドル(現在の為替で約164億円)で落札したジャスパー・ジョーンズの《Flag》(1958年)も展示されている。しかしこの展覧会を見る限り、ウォーホルとジョーンズと肩を並べているウェッセルマンの最高傑作は、2008年にサザビーズ・ニューヨークで記録された1070万ドル(現在の為替で約16億円)のオークション落札価格よりも高い価値がある、とまで思えてくる。 ウェッセルマンの作品はウォーホルほど高額で取引されているわけではないが、過小評価されているとも言いがたい。彼は早くから、キュレーターのヘンリー・ゲルツァーラーやディーラーのアイヴァン・カープといった有力者たちに支持されていたほか、タッシェンから上梓されたポップアートの概説書では、《Smokers》シリーズの作品が取り上げられている。それでも、彼を忘れられた存在として位置づけようとする試みは定期的に行われてきた。2016年には、『T: The New York Style Magazine』が「知られていない著名なポップアーティスト」として紹介している。 一方、展覧会後半の展示スペースでは、現代のアーティストによる作品が展示されている。ミカリーン・トーマスは黒人のオダリスクを描いたペインティングを展示するために1室を、デリック・アダムスは男性ヌード画で壁一面を独占していた。その後には、ジェフ・クーンズの《バルーン・ドッグ》や、ガラスケースに浮かべられたバスケットボールをモチーフにした彫刻作品が続く。また、アイ・ウェイウェイの陶芸作品や、ゼネラル・ミルズの「Monster 」シリアルをモチーフにしたカウズの最新作も展示されている。 アート・バーゼル・パリの会場では、ヨーロッパにおけるウェッセルマンの遺産管理を担当するアルミネ・レックが、《Smoker #27》(1980年)を含むウェッセルマンの作品を複数出品し、475万ドル(約7億1000万円)の値がつけられていた。ウェッセルマンは、習作も含め、生涯に90点以上の《Smokers》を制作したほか、彼が手がけた大型作品は、ニューヨーク近代美術館、アーカンソー州ベントンヴィルのクリスタル・ブリッジズ美術館、オスロ国立美術館、富山県美術館など、著名な施設に展示されている。 アメリカでウェッセルマンの遺産を管理するガゴシアンは《Smoker #20》(1975年)を所有しており、本作の推定価格は425万ドル(約6億3700万円)前後とされている。ギャラリーがVIPデーの終わりに送信したメールによると、同作品に買い手が付いたようだ。また、ヴェドヴィ・ギャラリーでは、個人コレクションの別の《Smoker》シリーズの1作が448万ユーロ(約7億3000万円)で販売されていた。