「チーム・サスエ」の魚を食べるために静岡へ。口の中に駿河湾が広がって魚の概念が変わる!
いま、多くの食いしん坊が魚を食べるために静岡に降りたっています。目指すは、「サスエ前田魚店」の魚を扱う地元の料理店。そこで得られるのは、自分の職に生きる人々のチームプレーが生み出す、唯一無二の食体験です。都内からほんの1時間で着くのですから、行かない手はありません。
静岡の料理店がどんどん化けている
昨年頃から、都内の高級店での外食中に、ふと感じてしまうことがあります。それは魚を食べている時、「すごく美味しい。でも死んでいる」と。料理になる魚はそもそも死んでいるので、おかしな話に聞こえるでしょう。自分でも変だと思うのに、そう感じてしまうのはなぜか? 理由は、ここ数年で静岡にある「サスエ前田魚店」の魚を扱う地元料理店の魚を食べ続けたこと。元々それらの店では高いレベルの魚が出されていましたが、昨年からさらに違うフェーズに入っています。ひと言でいえば、「バカ旨い」。でも、味だけの話ではなく、人の心を打つインパクトを食べた瞬間に感じるのです。魚は死んでいるのに、途切れていないリズムが身体に入る感覚と言いましょうか。
どの店で食べられるかと言えば、以下の7軒。最近では全国の食いしん坊から“チーム・サスエ”とも呼ばれる7人の料理人です。上から、静岡で独立開業してから「サスエ前田魚店」と取引している順になります。 ・ 静岡市「てんぷら成生」志村剛生さん(49歳)取引歴17年 ・ 焼津市「茶懐石 温石」杉山乃互さん(40歳)取引歴15年 ・ 静岡市「シンプルズ」井上靖彦さん(47歳)取引歴9年 ・ 静岡市「日本料理 FUJI」藤岡雅貴さん(39歳)取引歴5年 ・ 焼津市「馳走西健一」西健一さん(44歳)取引歴2年 ・ 焼津市「なかむら」中村友紀さん(39歳)取引歴1年4カ月 ・ 浜松市「Notice」今津 亮さん(39歳)取引歴1年
料理人たちに魚を渡すのは、「サスエ前田魚店」の前田尚毅さん(50歳)。静岡・焼津(やいづ)の魚店に5代目として生まれた前田さんは、駿河湾の魚を知り尽くす人。お母さんにおんぶされている頃から、醤油もつけない魚の切り身をおやつにして育ちました。 最新部2500mに達する日本一深い駿河湾は、生物多様性に富み、1000を超える魚種が生息する漁場です。富士山をはじめとする山も連なる静岡県。富士川や大井川などを通った山のミネラルが海に流れ出て、それを摂取した桜海老や小魚を食べるグルメな魚たちが生きる世界です。その魚を前田さんが仕立てると、ひと口でも、「駿河湾が凝縮している」と感じる味わいに。駿河湾の魚の魅力、漁師さんたちの仕事を伝えたいからこそ、1ミリ1秒を刻む仕事で魚をどんどん化けさせます。 例えば魚を冷やすために使う氷は12種類。かき氷に着想を得たシャーベット状の氷から、鯛焼きにヒントを得た魚型の氷まで、一匹ごとに使い分けます。塩をふって魚の水分量を操る脱水にしても、前田さんにしか掴めない塩梅が存在します。いわば魚の化学者。ですから、国内外の有名シェフがその魚を求め、取引先は100軒以上に及ぶ。でも、ぜひ一度は前述の静岡の料理店で食べていただきたい。