「チーム・サスエ」の魚を食べるために静岡へ。口の中に駿河湾が広がって魚の概念が変わる!
なぜなら、そこには地元こその“魚のバトンリレー”があって、魚に人の想いがガツンとのってくるから。ゆえに死んだ魚に生きたライブ感を覚えるのですが、近年、そのバトンリレーがさらに進化しています。 どういうことか、昨年11月に開催された「東アジア文化都市2023静岡県」のイベントでの料理と言葉も引用しながらお伝えします。イベントでは、“チーム・サスエ”の料理人たちと、韓国と香港の有名シェフによるコラボディナーが提供されました。前田さんが「てんぷら成生」の志村さんとタッグを組み始めてから17年。仲間が増え、ローカルガストロノミーの盛り上がりが国際的なものになってきています。
魚のバトンリレーあってこそ生み出せる味
当日、提供された魚で特に驚いたのがエボ鯛のお造りでした。エボ鯛は干物や煮付けで食べるのが一般的。それが刺身で出てきて、噛んだ時の感動をいまでも覚えています。感動って安直に言いたくないですが、このエボ鯛には使いたい言葉。 よく魚は寝かせたり熟成させたりすると旨味が増すと言われますが、サスエでは違います。“泳がせ”の生きた魚を締めることでしか出せない旨味、その旨味を出すための瞬間を狙った技が存在しているのです。いま私たちが味わえるその美味しさの始まりは、17年前に遡ると前田さんが振り返ります。
「17年前に(てんぷら)成生と二人三脚で始めた当時は、1日2人しかお客さんが入らない日もありました。いまでこそ超予約困難店ですが、最初の1年は閑古鳥。それでも続けていくと、東京からもお客さんが来る店になっていきました。そんななか、8年前にこれからの駿河湾の将来を考えた時、いま手に入る魚のクオリティを上げることが必要と思い、そのためにはもっと漁師さんに協力してもらわないといけなかった。料理人と魚屋でタッグを組むだけではなく、漁師さんも一緒にならないと変わらない。料理は、魚が針をくった瞬間から始まっていると気づいたからです」 そう考えていたのは、ちょうど2016年夏のリオ五輪の頃。ある名シーンが前田さんを鼓舞しました。 「陸上男子の400m走リレーを見ていたんですね。日本代表は、100mで10秒を切っている選手はひとりもいなくて、個人戦では世界に勝てないけど、リレーでは世界で2位になった。銀メダルを獲りました。あのリレーをもう100回以上は見返していますけど、バトンリレーだったんです。バトンのスピードが素晴らしかった。そのバトンを魚におきかえ、同じチーム戦と考えたら、静岡の食はもっと強くなれる。でも、8年前にはスターターがいなかったんです」