「チーム・サスエ」の魚を食べるために静岡へ。口の中に駿河湾が広がって魚の概念が変わる!
前田さんはスターターを生むべく、漁師さんたちに直談判を始めました。しかし、最初は門前払い。前田さんのリクエストは漁師さんの手間を増やすことでしたし、長年のやり方を変えることは、そう簡単ではありません。周囲には叩かれ、話を聞いてくれる人はひとりもいませんでした。
“游がせ”の魚が、生きたまま港にやってくるようになった
頭を下げて漁師さんを周っても上手くはいかない。それでも、“ひとりでも協力してくれれば変わる”と揺るがなかったのは、既に「てんぷら成生」の志村さんというひとりの存在が、静岡の食を変え始めていたから。模索するなか、ある身近な人が流れを変えてくれました。 「たまたま焼津水産高校の同級生が自分の新船を持って、これから漁師として本格的に食っていくぞという話になったので、彼に細かなことをお願いしたら受けてくれました。そして、その魚を2~3割高く買うようにしました。すると、魚のクオリティが徐々によくなっていき、他にも協力してくれる漁師さんが増えてきました。最初はお金だったんですよ。正直、“お前いくらで買うんだ?”って話で。 それが半年経った頃ですかね。漁師さんが、もういいよという感じで、“とにかく喜ばしたい”と言ってくれました。あの時は、店に帰ってからガッツポーズしました。飲食店のメンバーにも流れが変わったと言ったら、じゃあ今度は漁師さんにも店で食べてもらおうと。漁師さんも魚屋も、最後に食べるお客さんがどう感じるかを汲みとる必要があるからです。“夜な夜な会”と言って、成生とは17年前から続けてきました。その会にバトンリレーのスターターである漁師さんを呼ぶようにしたら、いまとんでもないことになってきました」
スターターの漁師さんが、アンカーであるお客さんとなって、獲り方や処理を変えた魚を口にする。いままでとの味の違いに驚き、モチベーションがぐっと上がっていきます。 近年、特に大きな違いとなっているのが、“泳がせ”の魚たち。金魚すくいで追うように、網のなかで傷つかずに泳いで港に辿り着く魚です。前述のエボ鯛に感動したのも、“泳がせ”だったから。そういえば前田さんのSNSを見ていると、いつも“游がせ”と書いているのが興味深い。泳ぐではなく“游ぐ”だと“遊ぶ”のニュアンスが出て、まるで魚が遊んでいるうちに港まできて締められ、息をひきとります。