今季限りで浦和退団の宇賀神はどんな思いで天皇杯決勝進出のヒーローになったのか…「あなた方は間違っていたと証明してやる」
生半可な気持ちでは務まらないと理解しているからこそ、宇賀神は胸の奥底に封印していた無念の思いを引っ張り出して自らを鼓舞した。地上波で全国放送されたヒーローインタビューでもあえて言及した一方で、オンライン会見ではこう語っている。 「そういう気持ちが、今日のゴールに乗り移ったんじゃないかと思っています」 両チームともに迎えた前半29分だった。オフサイドぎりぎりで右サイドを抜け出したMF関根貴大が放ったクロスが、ファーサイドに流れてきた。こぼれ球を空振りした明本が体勢を立て直し、シュートと見せかけて後方へパスを送った。 ペナルティーエリア内の左側へ、完璧なタイミングで走り込んできた宇賀神は「僕にゴールを取らせるために、(明本が)わざと空振りしてくれたんだと思う」とおどける。ダイレクトで右足から放たれた一撃はピッチすれすれを切り裂く超低空で、それでいて外側へ逃げていく軌道を描きながら右のサイドネットへ鮮やかに突き刺さった。 「正直に言うと、その前のプレーがオフサイドを取られるんじゃないかと思って、ちょっとリラックスして打てた、というのはあります。(明本の)空振りで時間が一度できたのも大きかった。足にボールが当たった瞬間に、ゴールが入る軌道が見えていました」 先制点を奪った直後にリザーブの槙野と熱い抱擁を交わしたロドリゲス監督は、1点をリードしたまま迎えた後半16分に非情の決断を下す。最初の交代カードで宇賀神に代えてドリブラーのMF汰木康也を投入。汰木が左サイドハーフに入り、明本が左サイドバックに回った理由は、宇賀神がもらっていたイエローカードも関係していた。 「まあ、仕方のない交代だったのかな、と思っていますけど」 余力十分でピッチを後にした宇賀神は「まだまだ自分を見せられる、という感覚もあった」と複雑な胸中をのぞかせた。同時に新型コロナウイルス禍で初めて収容率100%開催となった一戦で埼玉スタジアムに駆けつけた、3万人を超えるファン・サポーターから期せずして降り注いできた万雷の拍手を笑顔で受け止めている。 「(途中交代で)悔しい気持ちもありつつ、こんなにも拍手されながら僕がピッチを去るなんて、12年間で初めてじゃないかなと思っていました」 ファン・サポーターはわかっていた。流れを完全に呼び込むファインゴールだけではない。球際で何度も見せた激しい攻防や、苦しい状況になるほど響いてくる声を。規制がなければ大きな声で、ヒーロー宇賀神の名前をコールしたかったはずだ。