ジョン・ケージの《4分33秒》はなぜ名作なのか──音楽の概念を180度変えた「無音の曲」を聴く
《4分33秒》はどんな曲か?
《4分33秒》には複数の楽譜がある。初演は1952年、ピアニストのデイヴィッド・チューダーによってニューヨーク州のウッドストックで演奏された。この曲の最初の楽譜は失われているが、従来の楽譜の書き方を踏襲したものだったと考えられている。その後まもなくケージによって作られた別バージョンの楽譜では連続する縦線で曲を表し、「1ページ=7インチ=56秒」と書かれている。なお、この楽譜は現在ニューヨーク近代美術館(MoMA)の所蔵品となっている。 MoMAにある楽譜には、「あらゆる楽器または楽器の組み合わせのための」と記されているが、3楽章からなる《4分33秒》の演奏者は合計273秒の間、何も演奏しない。そもそもこの曲は音楽の知識を必要としないとされるため、理論上は誰でも演奏することができる。
ケージが《4分33秒》の発想源としたのは何か?
ケージは長年にわたり、この作品はロバート・ラウシェンバーグの「ホワイト・ペインティング」シリーズに触発されたと繰り返し言っていた。1950年代初頭に制作されたラウシェンバーグの絵画シリーズでは、白だけしか色が使われていない。しかし、ケージにとってそれは白一色を超えるもので、「光、影、粒子が飛び立つ空港だった」と語っている。 実際、ノースカロライナのブラック・マウンテン・カレッジで1951年にケージ作品が演奏されたときには、「ホワイト・ペインティング」シリーズの少なくとも1点が展示されていた。ケージやマース・カニングハム、ジョセフ&アニ・アルバースが教師を務め、進歩的な芸術教育を行っていた同校には、ラウシェンバーグ、サイ・トゥオンブリー、ルース・アサワらが学生として在籍し、さまざまな実験的手法が育まれている。 ケージはまた、ハーバード大学の無響室を訪れた体験から大きな刺激を得たという。無響室は、ほぼ完全な無音状態を作り出すように設計されているが、ケージには甲高い音が聞こえた。それは自分の神経系や血流が発する音だと言われたと、彼は記している。