最果タヒさんが語る「『詩』のイメージを変えたい理由」「何度も読み返したい漫画」
詩が本の中だけではなく、日常の延長線上にあると素敵
最果さんは、詩=本という境界線を越え、美術館や図書館での企画展、詩とコラボレーションしたホテル、パブリックアート、プラネタリウムといった今までにない詩の取り組みに積極的に挑戦してきました。 「詩が本の中だけではなく、いろいろな場所にあって日常の延長線上にあると素敵なんじゃないかなと思っています。詩を読もう、と思って読むのではなく、不意に視界に入った言葉を読んでみて、これはなんだろう? でもなんか好きだなぁ……みたいに思ってもらえたら、それはまた新鮮な詩との出会いになるから。2019年に横浜美術館で行った展示では、詩をモビールにしてつるし、言葉が組み換えられる場所を作りました。展示をしませんか?というお話をいただいた時、ただ言葉を展示するだけではなく、その場に来てもらうのだから、その場所でその瞬間にしか見られない詩がある展示の方がいいな、と思いました。それで思いついたのがモビールだったんです。見にきた人が、この言葉の並びが好きだとある一瞬の写真を撮ってくれる。その人が選び取った詩がそこに現れて、素敵だなと思っていました。 詩は、書いた私が『こう読まれてほしい』と全て決めて、一方的に読者に差し出すというよりも、読者がその時に考えていることや気持ちを詩に重ねて、その人だけの詩を心の中に完成させていくものだと思っています。この展示はそうした読者の中で完成していく詩の様子が、実際に形になって現れて、それが私も見ていて楽しかったですし、“私だけの言葉を見つける”感覚が強まる、面白い場所になったと思います」
「詩」のイメージを変えたい、詩を好きになってくれた人の気持ちを大切にしたい
最果さんの本は、ネオンカラーやポップなデザインが印象的で書店や本棚でも一際目を引きます。展示やフェアなど関連するグッズも、とにかくおしゃれでセンスが良く、持っているだけでワクワクする気持ちになります。 「私がかわいいものが好きだというのもあるのですが、『死んでしまう系のぼくらに』を出す時、担当編集者さんに“詩集らしい本じゃなくて素敵な可愛い本にしたい”と相談して、当時tumblrでデザインをよく見ていたデザイナーの佐々木俊さんにお願いしました。その後、佐々木さんにはグッズや展示のデザインでもたくさんお世話になっています。佐々木さんは詩をどんと前に出しながら、デザインとして本当にかっこいいものを作ってくださるので、いつもとても仕上がりが楽しみです。詩に対して夢見ている人に対して、誠実なデザインをしてくれるんですよね」 そこには長年感じていた詩のイメージを変えたい、詩を好きになってくれた人の気持ちを大切にしたいという思いがあります。 「人は現実的なことばかり考えていても多分生きていけなくて、どこかで夢を見ること、何かを信じ抜くことを大切にしているように思います。たとえ役に立つものではなくても、夢を見ているからこそ、暗闇に一つ星が見える夜のように、何にも先が見えない道をまっすぐに歩めることってあると思うんです。詩が、そうした夢や信じるものになることもあると私は思っています。詩を読んでくれている人が、詩集を手に取るときにここになにかがあるって信じる気持ちや、そこに見出している夢そのものに、書く私は誠実でいたい。詩を素敵だと思ってくれている人が手に取ってくれるなら、詩を素敵だと思ってくれるその気持ちに正面から応えるようなものが作りたいです。詩を読むことが嬉しいこと、素敵なことだと思っている人の気持ちを大切にしたいと思っています」