《成瀬シリーズで本屋大賞》作家・宮島未奈さんインタビュー「新作は“婚活・サイゼ(笑い)”への無意識なカウンターカルチャーかも」
固有名詞を使うのはその言葉でしか伝えられない気持ちや状況があるから
魅力的なキャラクターとともに、疾走感ある読み心地を支えているのが、小説中にちりばめられた固有名詞だ。“成瀬シリーズ”では「西川貴教」や「ミルクボーイ」が登場し話題を集めたが、今作では婚活会社「ドリーム・ハピネス・プランニング」の昔ながらのホームページが「阿部寛のアレ」と説明されたり、「婚活時のデートでアリか?ナシか?」としばしば論争が起こるファミレスの「サイゼリヤ」が物語のキーポイントとして登場する。 「固有名詞を使うのは、その言葉でしか伝えられない気持ちや状況があると思っているから。だから、結構平気で固有名詞を出しちゃいます。阿部寛さんのホームページを知らない人ももちろんいるだろうけど、あれを見たときの感情はほかの言葉には置き換えられない(笑い)。 また、そもそもですけど婚活って何かと世間的にいじられたり“(笑い)”みたいに嘲笑の対象になったりしているのがよくないと思うんですよね。それを自虐的に語るのもよろしくないと思っていて。婚活をバカにせず、過剰に持ち上げるのでもなく、淡々とフラットに書きました。 ただサイゼリヤについては、サイゼリヤを否定する人たちへのアンチテーゼ的なものが私の中にあるから、無意識だけどカウンターカルチャー的に書いた部分はあるかもしれない。嘲笑して書く人がいてもいいけど私は書かない。そういう決意みたいなところもあるし、嘲笑しない世界があってもいいよねっていう“可能性”を示したいんです」
”40才で変わる人もいる”っていうことは言える
“可能性”は本作を貫くテーマでもある。 「家にこもっていたケンちゃんが突然、婚活パーティーを手伝い始めたように、先のことはわからないし、何才からでも新しいことはできるという可能性は伝えていきたいですね。私自身も滋賀の主婦だったのが、38才で作家デビューして人生が激変しましたから。 といっても『私ができたのだからあなたも』というおしつけがましさは嫌いなんです。私もいまこうして小説を書いているのは“たまたま”だと思っているし、その人だからできることって絶対あると思うので、他の人に同じことを勧めようとは思わないですし。だけど、それでも“40才で変わる人もいる”っていうことは言えるじゃないですか。 それでちょっと元気になってもらってもいいし、何か始めてみるのもいいし、私はこうはなれないなって思うのも悪くない。そういう、明るい気持ちになる作品をこれからも書いていきたいと思います」 【プロフィール】 1983年静岡県生まれ。滋賀県在住。京都大学文学部卒業。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18 文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年、同作を含む連作短篇集『成瀬は天下を取りにいく』でデビューし、翌年本屋大賞を受賞した。最新作『婚活マエストロ』(文藝春秋)が10月25日に上梓。