過去には金メダルの返還も!「ドーピング」と「サプリメント」の深い関係。スポーツ栄養学専門家「劇的に体が変わるサプリがあるとすれば、それは…」
2024年3月、紅麹の成分を含むサプリメントを摂取した消費者に、健康被害が多数発生したことが報告されました。現在も調査が進められるなか、「サプリメントに対しては、過剰に反応せず、メディアリテラシーをもって冷静に対処することが求められる」と語るのは、スポーツサプリメントの企画・開発に関わった経歴を持つ、立教大学特別選任教授の杉浦克己教授です。今回は、杉浦教授の著書『一般教養としてのサプリメント学』から、健康に生きるためのライフスキルを一部ご紹介します。 【図】安全なスポーツサプリメントの選び方 * * * * * * * ◆シドニー五輪のドーピング騒動 ドーピングは、スポーツサプリメントのダークサイドともいえます。 有名なのは、米国のサプリメント会社『BALCO(バルコ)』のスキャンダルです(CNN,2022)。 バルコ社は自社のサプリメントに、筋肉増強ステロイドや、持久力を高めるエリスロポイエチンなどを配合し、一流アスリートに使用してもらい、さらに彼らが普及させて他のアスリートにも使用を広げていきました。 有名なのは、陸上競技のメダリスト、マリオン・ジョーンズです。彼女は、元夫のC・J・ハンターからの勧めにより、バルコのサプリメントを用いて激しいトレーニングに耐え、シドニー五輪で金3個を含む5個のメダルを獲得しました。 しかし、バルコ社のスキャンダルが、メジャーリーグのバリー・ボンズなどから次第に明らかになり、やがてジョーンズもバルコ社のサプリメントを使い、結果的にドーピングに手を染めていたことが明らかとなりました。 ジョーンズは、IOCに対し、五輪で獲得した5個のメダルを返還しました。 当初は、ドーピングをしているつもりはなかったのでしょうが、その医薬品の効果により、激しいトレーニングからの回復が高まって、やがてその商品がなくてはならない身体になってしまったものと思われます。
◆なぜドーピングはいけないのか? 日本でも、例えば2016年にJ リーグのサンフレッチェ広島で、ドーピング違反が発覚しました(サンフレッチェ広島、2016)。 しかし、違反した選手は、チームで供給される米国製のサプリメントしか使っていなかったため、そのサプリメントを調べた結果、メチルヘキサンアミンという興奮剤を含んでいることがわかりました。 チームのトレーナーが、製造元にドーピング禁止物質を含まないかを確認しており、チームドクターも納得して使用していました。 そのため、選手の過失とはならず、選手は試合に出られるようになりましたが、これも海外製のサプリメントを十分に検査せず、先方の言うことを鵜呑みにしたことによるものなので、安全性の証拠は取っておかなければなりません。 実は、シドニー五輪においてドーピング違反になった外国選手が、禁止物質が配合されているのに表示されていないサプリメントを使用していたことが発覚して、IOC は欧米のサプリメントを634種類購入してドーピング検査をしました(IOC,2002)。 その結果、94種類(14.8%)の製品から、タンパク同化ステロイドなどの禁止物質が見つかったので、各国のオリンピック委員会に警告文を出し、日本ではJOC から各競技団体に通達文が出されました(下図)。 この頃から、海外製品には気をつけるようにといわれるようになり、競技団体のドクター、トレーナー、栄養担当が協力して、選手の使用しているサプリメントの安全性を調べるようになりました。 なぜドーピングがいけないのかといえば、以下のことが挙げられます。 ・選手の健康を害する ・アンフェアである ・社会に悪影響を与える ・スポーツの価値を損なう よって、サプリメントは、(医薬品の範疇には踏み込まず)食品の範疇でスポーツ栄養学的な研究をして、アスリートを支えていかなければなりません。