幼保小の接続問題、通知表廃止した香川小で新たな実践「スタートカリキュラム」
「子どもたちと時間割をつくる」という発想
通知表をなくしたことで知られる神奈川県茅ヶ崎市立香川小。2022~23年度の2年間、同校で1年生の担任をつとめた山田剛輔氏は、クラス独自でオリジナルの「スタートカリキュラム」を実施。時間割という枠をあえてつくらず、毎朝子どもたちに「今日は何したい?」と聞きながら日々の教育活動を行った。幼保小の接続、いわゆる小1プロブレムなどの観点から、真の意味で子どもの学びにつながるスタートカリキュラムや授業のあり方とは。山田氏に取材した。 【写真で見る】「スタートカリキュラム」ではどんなことをやっているのか? ──小学校へ入学した子どもが、園などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として主体的に自己を発揮し、楽しい学校生活を創り出していくための「スタートカリキュラム」。文部科学省国立教育政策研究所の事例集などがある中、あえて「時間割から子どもと一緒につくる」という独自の実践を行った理由について教えてください。 2022年、10年ぶりに1年生の担任になりました。幼児教育では、「ひと・もの・こと」との関わり中で、遊びを通して学び育つことが大切にされていますが、小学校の授業で子どもたちが出会う「ひと・もの・こと」は、教員が準備したものがほとんどで、幼保小接続に課題を感じていました。 そこで、文部科学省国立教育政策研究所の「スタートカリキュラムスタートブック」を参考にして学習の予定をつくり、同じ学年の先生に提案して授業を実施しようと準備していました。しかし、1年生担任としてどのように授業実践していくのか改めて考えたとき、疑問がわきあがりました。スタートカリキュラムは、もともと、子どもたちが乳幼児期に遊びを通して学んできたことを生かし、主体的に自己を発揮してよりよい生活を「自分たちで創っていく」ものです。 スタートブックに書かれていることを形式的に行っても、「入学直後の子どもたちを、段階的に小学校文化に染めていく」だけにとどまってしまうのではないか、スタートカリキュラムにいちばん大切な「クリエイティビティ」に欠けるのではないかと思ったのです。幼保小接続の観点から、真の意味で子どもの学びにつながるスタートカリキュラムにしていきたいと考え、思い切って、子どもたちの声を聞きながら時間割をつくり、活動していく取り組みを始めました。 ──「子どもたちと時間割をつくる」という実践は、どのように生まれたのでしょうか。 すでに、子どもたちと時間割をつくる取り組みを行っている他校の実践も知識としてありました。それらを参考にしたというよりも、「小学校ってどんなところなのかな」など期待や希望を抱いて入学してきた子どもたちに「学校でどんなことしたい?」と聞くと、「校庭で遊びたい」「学校の中を回ってみたい」など、いろいろな声があがるんですよね。 子どもたちからの「やりたい!」を出発点として活動を展開したり、子どもたちに出会わせたいものを引き出すための投げかけに対する声をひろって新しい活動をスタートしたりすることなどにより、自然と「子どもたちと時間割をつくる」形になりました。 前期は、「かず」「ひらがな」「こうさく」など活動名を黒板に書き、それをもとにしながら「今日はどんな活動がしたい?」と語りかけながら、毎日の時間割を決めて学習活動に取り組みました。後期は、子どもたちのやりたい活動が多くなり、1日ごとに時間割を組むのが難しくなったため、月曜の朝に1週間分の時間割を子どもたちと話し合いながら決めました。
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