幼保小の接続問題、通知表廃止した香川小で新たな実践「スタートカリキュラム」
学習指導要領へのひもづけと評価
──興味深い実践の数々ですが、学習指導要領の目標と内容を満たすことはできるのでしょうか。 私がさまざまな実践をつくるときの基にしているのは、学習指導要領の目標と内容、教科書の内容です。ただし、教科書の内容を見ながら教材研究するわけではなく、先ほど申し上げたように「子どもにとってどのような状況のときに、その内容を学ぶ必要性や必然性が生まれるのか」を考え、プロジェクト活動をはじめさまざまな活動に教科の学習内容を埋め込む形でデザインしています。ですから、これまでお話ししてきた実践はすべて教科の学習内容とひもづいており、学習指導要領の目標と内容を満たしています。 ──活動のアイデアが浮かばないときは、どのような授業をされているのですか? また、授業時数はどのように調整しているのでしょうか。 活動のアイデアが浮かばないときは、子どもたちが楽しく学べるような工夫をしています。例えば、算数の「なんばんめ」の実践では、5つの紙コップに2つのサイコロを入れ、どこに入っているのかを当てるゲームをしながら「右(左)から何番目」などの理解を深めていきました。 授業時数については、学習指導要領で示されている各教科の時数の1週あたりの目安を子どもたちに伝えたうえで対話しながら時間割を決めていきます。ときと場合に応じて何を学ぶか未定の「?」の時間をつくり、子どもたちを意図的に学びに誘ったりしながら調整しています。 ──評価はどのように行っているのでしょうか。 ご存じの方も多いと思いますが、香川小では学校全体で議論した結果、2020年度から通知表を廃止しました。通知表の代わりになるようなものを準備するという発想ではなく、各担任の裁量により、日常的に子どもの生活と学習の様子をさまざまな機会とツールで伝えたり、面談を通して保護者に日々の学校での様子を伝えたり、家庭でも子どもとの関わりを大切にしていってもらえるようにしています。 これまで通知表を作成するために割かれていた膨大な時間を、子どもたちの成長を見取ったり、授業づくりをしたりする時間に使われるようになり、「結果」だけでなく、子どもを一人の人間として日常的に見取り、プロセスを伝える日常的な評価=形成的評価を大切にしています。プロセスを伝えるという意味では、学習の成果物をファイリングして保護者に見てもらっています。成果物には、ABCなどとラベリングをしたり、「もっとよく見て書きましょう」などと「指導」したりするのではなく、「アサガオのたねがくぼんでいるところをよくみているね」など、「認める・共感する」言葉で伝えるようにしています。 ──現在の学校教育における「評価」について、山田先生はどのようにお感じでしょうか。 予測不可能な時代を生きる子どもたちには、コンピテンシー(資質・能力)が求められています。しかし、多くの学校では、3つの観点((1)知識・技能、(2)思考・判断・表現、(3)主体的に学習に取り組む態度)を個別に評価しており、それぞれの観点がどのように結びついて、実際の課題解決に活かされているのかが見えにくいという課題があるように感じます。 本来は、知識を学び、それを活用して問題解決に取り組み、うまくいかないときには自己調整しながらやり直すという一連の過程を総合的に評価するべきなのではないでしょうか。テストの結果や知識の量だけでなく、知識をどう使い、自分がどう成長していくかという「学びに向かう力」を評価することにシフトしていくべきなのではないかと思います。
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