地球帰還へ 探査機「はやぶさ2」がリュウグウで得た“宝物”
宇宙探査の1ページを切り開く快挙の連続
1回目のタッチダウンでは、リュウグウ表面に触れた円筒状のサンプラホーンから弾丸が発射されたことも確認されました。たくさんの地表物質のサンプルが採取されたことが見込まれ、大成功を収めました。初代はやぶさは弾丸発射に失敗しており、津田さんは、初代の責任者を勤めた川口淳一郎JAXA教授に「初号機の借りは返しました」と報告したほどでした。 ところが好事魔多しというべきか、このとき機体の底面に設置された広角カメラと高度を計測するレーザー・レンジ・ファインダ(LRF)にたくさんの塵が付着し、感度が下がってしまうというアクシデントが発生しました。 これらの機器はタッチダウン以外では使いませんが、言い方を変えれば、タッチダウンの際には支障をきたすかもしれない事態となったのです。そうした状況の中で、プロジェクトチームは衝突装置(SCI:インパクタ)を使用した人工クレーターの作成を4月5日に実施することにました。リュウグウ地表に銅の塊を打ち込んで人工的なクレーターをつくり、表面だけではなく地表下の物質を観測するという試みは、世界でも初めてのことで、大いに注目を集めました。 人工クレーターを生成するSCIとは、直径30センチほどの円錐の形をした装置で、その中に約9.5キロの爆薬が詰められています。円錐の底面にあたる部分には約2キロの銅板が取り付けられ、爆発による衝撃で銅板がヘルメットのような形に変形しながら秒速2キロの速度でリュウグウに衝突することで、人工クレーターがつくられるのです。 SCIの爆発や人工クレーターの作成時は、リュウグウ付近でSCIの破片やリュウグウからの噴出物が高速で飛び散ります。そのため、はやぶさ2はそれらに巻きこまれないよう、リュウグウの裏側に回りこみ、安全な場所に退避する必要がありました。 これまでの運用では、リュウグウ上のどこか1つの場所を目印としていましたが、このときは明確な目印がないまま、はやぶさ2を動かさなければければなりませんでした。いわば目をつむりながら退避行動をやり遂げなければいけなかったのです。 はやぶさ2は、この難題を克服し、退避行動をスムーズに実行しました。しかも、退避中に切り離した分離カメラ(DCAM3)によって、リュウグウに人工クレーターがつくられる様子を捉えることにも成功。リュウグウから噴出物がカーテンのように噴き出す瞬間を目にすることができました。プロジェクトチームでSCIとDCAM3を担当した小川和律さんは「衝突装置を使って人工クレーターをつくったのは、もちろん世界初のことです。しかも、クレーターができるプロセスを最初から最後まで鮮明に記録することができたことは、ものすごい成果です」と胸を張りました。そして「新しい宇宙探査の時代をつくっているのではないかと感じました」とも付け加えました。