地球帰還へ 探査機「はやぶさ2」がリュウグウで得た“宝物”
デコボコの表面で難易度は上昇……苦労の末の着地
年が明けた2019年2月22日。いよいよはやぶさ2の1回目のタッチダウンが実施されました。タッチダウンはもともと直径100メートルぐらいのエリアの中に着地してサンプルを採取する計画でした。しかし先述のように、リュウグウの表面にはそれほど広い平地はありません。プロジェクトチームは最終的に半径3メートルの円の中にピンポイントではやぶさ2を着地させることにしたのです。当初の計画も20キロ上空から“野球場の中”に正確に降りなければいけないという難しいものでした。それがさらに狭くなり“ピッチャーマウンド”くらいのスペースに降りなければいけなくなり、難易度は大幅に上がりました。 プロジェクトチームは、この難問に果敢に取り組み、誤差1メートルというすばらしい精度でタッチダウンをすることに成功しました。「小型モニターカメラ(CAM-H)によって、タッチダウンの瞬間が鮮明な動画として撮影できたことにとても驚きました」と宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所研究総主幹の久保田孝さんは振り返ります。 プロジェクトマネージャの津田さんは、成功を導いた一番の転換点は2018年9月12日の出来事だといいます。この日は、1回目のタッチダウンに向けた最初のリハーサル運用が行われたのですが、センサーに不具合が起きて、リハーサルは途中で中止となりました。その直後、プロジェクトチーム内で話し合いがもたれ、議論の末にタッチダウンの方法を変更する決断がなされたのです。 当初の計画では、タッチダウン運用のときにターゲットマーカーを落とし、落ちていくターゲットマーカーを目印に追尾し、着地するという初代はやぶさと同じ方式が考えらえていました。それを、事前にターゲットマーカーを投下した上で、周囲の地形などのデータも考慮しながら、正確な位置を把握できているマーカーを目印に、より精密なタッチダウンを目指す「ピンポイント・タッチダウン」方式に変更することに決めたのです。これは本来、後に実施する人工クレーターへのタッチダウンの際に用いる予定の方法でした。 津田さんは「リュウグウ表面が想定よりも、でこぼこしていると分かってきて、さまざまな試行錯誤を繰り返しました。2019年1月中旬までの4か月間は、タッチダウンの方法が見えずに苦しい時期が続きました」とタッチダウンの手順を決めるまでの日々の苦労を口にしました。