カズと話して痛感した「サッカーに対する本気度」 J2最年長が忘れられぬ一緒に飲んだカプチーノの味【コラム】
「カプチーノを飲みながら、一緒に話をしました」
「今回はそういう話(現役引退)を聞いたのもあって、僕のユニホームを。そういうことですね」 決して多くは語らなかった。それでも、会場となった水戸市内のホテルや開始時間を含めて、本間さんの引退会見の詳細を調べた上で、スタートが間近に迫っていた控え室へ直筆サイン入りのユニホームを送り届けるという、なかなか真似のできない、カズ流の粋な計らいが本間さんを感激させたのは言うまでもない。 開幕直後に40歳になった2017年シーズン、J2出場がゼロに終わった本間さんは、以降も出場機会を減らしていった。2018年シーズンこそ11試合に出場したものの、2019年シーズンは再びゼロに。2020年シーズンの1試合をはさんで、2021年シーズンも出場ゼロとなり、カズに答えを求めた。 当時のカズはJ1へ昇格した横浜FCで、2020年シーズンは4試合で計68分、2021年シーズンにいたっては浦和レッズとの第3節の1試合、わずか1分間の出場時間のまま、シーズン終盤を迎えていた。それでもサッカーの情熱をたぎらせるカズの言葉は説得力に満ちていた。カズから貰った刺激を、本間さんはこう明かしている。 「カプチーノを飲みながら、一緒に話をしました。僕も試合に出られず、苦しいときにカズさんのサッカーに対する純粋な気持ちに触れて、もう一回本気でポジションを掴みにいこうと奮い立つことができましたし、何よりもサッカーに対する本気度の甘さをすごく感じました。サッカーに失礼がないように頑張ろうと思いました」 カズの金言に感謝した本間さんは、会話を交わした時点から出場数を2つ加えて、通算出場数をJ2リーグ歴代最多を更新する「577」に伸ばしてスパイクを脱いだ。今シーズン初出場を先発で飾ると、最後の勇姿を見せた11月10日のモンテディオ山形とのホーム最終戦後に引退セレモニーでは、再びサプライズがあった。 岡野さん、鈴木隆行さん、田中マルクス闘莉王さん、小野伸二さんと浦和および水戸の元チームメイトたちが登場したビデオメッセージの最後をカズが締めたからだ。驚いた表情を浮かべた本間さんへ向けて、カズは2015年シーズンのゴールや2019年に交わした会話をよく覚えていると笑いながら、こんな言葉を送っている。 「引退を決意して、また違う道を進んでいくなかで、これからはいままでのサッカー人生を生かしていくときだと思います。ぜひともその力をサッカー界に費やして挑戦していってください。応援しています」 引退会見に続いて、引退セレモニーでも、本間さんの新たな門出へエールを送ったカズから伝わってきたのは、優しさと格好よさを同居させるダンディズムだった。その視線は引き続き鈴鹿の一員としてプレーし、開幕前には58歳になるプロ40年目の来シーズンへ向けて、個人的なキャンプを予定しているオフへと向けられている。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)