地方紙が見せる「新しい生活保護報道」、岐阜新聞の長期連載が見せた現代の貧困の姿とは
働く人たちに気づきを与える
8月29日、第3章最終回となる記事は、次の言葉ではじまっている。 「いただいた申請は、必ず受け付けないといけないことになっているんです」。 6月に岐阜市役所へ生活保護の申請に訪れた50代女性に対して、窓口の相談員から告げられた言葉である。居住支援法人の担当者や弁護士らは「市役所の対応が変わった」と口をそろえる。 取材を進める山田さんも、市職員の変化を肌で感じるという。 「道の駅で車上生活をしていた人が生活保護につながったことがあります。そのことを聞いたのは、市職員からでした。『声をかけてくれたおかげで、つながりました』と教えてくれたのです」 大量の人事異動があった訳ではない。窓口で受付をしている相談員も、以前のままだという。誰かを悪人にして叩くのではなく、構造の問題を指摘して、そこで働く人たちに気づきを与え、現場を変える。メディアがもつ力を思い知らされる。 山田さんに、これからの展望を聞いてみた。 「取材を通じてみえてきたのが、地方都市における支援体制の脆弱性です。支援したいと考えている人はいるものの、それぞれ点在していてつながりにくい。岐阜の場合は、すぐ近くに名古屋市があります。 もしかしたら、岐阜では生活できずに、名古屋に流れている人がいるかもしれない。名古屋市内の炊き出しに参加して、岐阜の出身の人を探しています」 公式サイトにはメッセージフォームを設けており、当事者や支援者の声を広く募っている。メッセージに寄せられた声を元に取材が始まったこともあったという。 大手メディアにはできない、地域の課題を見抜く取材力。地域ジャーナリズムの底力を感じた。
大山典宏