地方紙が見せる「新しい生活保護報道」、岐阜新聞の長期連載が見せた現代の貧困の姿とは
「住まい」の問題から生活保護へ
山田さんが生活保護の問題に興味を持ったのは、県警担当だった時に書いた特集記事がきっかけだった。 自傷他害のおそれのある精神障害者の対応に追われる警察官の記事を書くなかで、住まいを失った精神障害者が、なかなか新しい住まいを見つけることができない実態を知った。不動産会社に取材すると、高齢者など入居を断られるケースは他にもあることを知った。近隣トラブルや孤立死のリスクを抱える人は、大家が入居を渋る。 住まいがあることが、当たり前ではない。この問題にフォーカスするために、ホームレスの取材をはじめた。 国や自治体は、定期的にホームレスの実態調査をしている。23年の調査では、岐阜県内のホームレスはわずか3人。岐阜市は、「市内にホームレスはいない」という回答であった。
鼻を突く強烈なにおい、廃コンテナの1年間
本当にいないのか。統計に含まれない人がいるのではないか。その思いは取材を進めるなかで確信に変わる。 取材で最も印象に残っているのは、廃コンテナで暮らす60代の男性のことだという。飲食店で働いていた男性は、コロナ禍で失業。寮を追い出されてホームレスになる。友人を頼ったが、彼にも家族があり、自宅に居候はさせられない。代わりに提案されたのが、友人が保有する廃コンテナだった。 男性は約1年間、廃コンテナでの生活を続けた。この間、生活保護を受けるために、何度も市役所に足を運んだ。 そのたびに、「住所がない人は受けられない」「(アパートを借りるための)保証人がいない」と理由をつけて断られた。5回目にようやく申請が受け付けられ、訳も分からずに無料低額宿泊所に連れていかれた。しかし、あまりに劣悪な住環境に、2日で飛び出して廃コンテナに戻った。 山田さんが彼の取材をしたのは、良心的な不動産会社の支援でアパートの入居が決まった直後のことだった。23年5月、山田さんは男性が住んでいた廃コンテナを訪れた。 汗が染みこんで変色した布団。ゴミが散乱して足の踏み場もない。そして、鼻を突く強烈なにおい。人が暮らせるような状態ではなかった。