昨年とは性格が違う最近の円安…日銀の金融緩和修正は早まる?
円安が再び進んでいます。25日のニューヨーク外国為替市場では半年ぶりに1ドル140円台まで下落しました。今回の円安は日銀の金融緩和政策に影響を与えるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】日経平均なぜ3万円超え? 4つの視点から株価急上昇の要因を考える
金融緩和継続の認識を示した植田総裁だが…
5月25日にマスコミ各社が報道した植田総裁のインタビューによると、植田総裁は「物価上昇が国民にかなり大きな負担になっている」とした一方で「基調的な物価上昇率が少しずつ上がってきているのは事実だが、持続的・安定的な達成には届いていない」との認識を維持し、金融緩和の継続が適当であるとしました。また拙速な政策修正は「(物価が)下がっていくところに引き締め効果が加わり、雇用等に大きなマイナスの影響が及ぶ」との見解を繰り返しました。 ただしドル円レートが140を超えた現在(5月29日時点)、日銀内部では緩和修正に向けた議論が慌ただしくなっているかもしれません。筆者は、緩和修正は2023年度に入った後の名目賃金上昇率(主に毎月勤労統計)を目視でき、かつ来期も(今年度よりは低いとはいえ)賃上げが続くとの見通しに相応の自信を持てる10~12月期までずれ込むと見ていますが、直近の円安は早期の緩和修正確率を高めたと判断しています。6月16日の金融政策決定会合に向けて円安が加速するようだと金融緩和路線の変更、具体的には10年金利操作目標の引き上げに着手する可能性が高まるでしょう。
「ドル高」から「円安」に性質が変わった
昨年の急速な円安進行、それに伴う輸入物価の上昇もあって国民の円安アレルギーは強くなっており、日銀への風当たりは厳しくなると予想されます。その点、2023年のドル円上昇(=円安)が「ドル高」から「円安」へ性質が変化している点は重要でしょう。2022年の円安はFed(米連邦準備制度)の急速な利上げを主背景とするドル高に起因していたことから、日銀はそれを金融政策(引き締め)で食い止めようとせず静観し、最終的に政府が為替介入で対応しました。 他方、2023年は「円安」が浮き彫りになりつつあります。ECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)が金融引き締めを続ける中、ドルはユーロやポンド或いはスイスフランなどに対して弱くなっています。 換言すれば、円安要因として日銀の金融緩和の存在感が増しているということです。これは為替対応をめぐる政府と日銀の議論において日銀に緩和修正を促す方向に作用するとみられます。