昨年とは性格が違う最近の円安…日銀の金融緩和修正は早まる?
日本の貿易に円安は効きにくくなっている
なお、周知のとおり日本の貿易・サービス収支の黒字幅縮小(赤字幅拡大)は構造的なものとなっており、円安の利点は効きにくくなっています。その点、10年ほど前はサービス収支の一部を構成する存在に過ぎなかった「(サービス収支の内訳の)その他サービス収支」を構成する複数の項目の赤字幅が急拡大していることは重要でしょう。鉱物性燃料の輸入を減らすエネルギー政策の抜本的改革が見通せない中、これらの赤字幅拡大は貿サ収支の赤字幅に直結します。 日本のサービス収支は1996年の現行国際収支統計の集計開始以降、一貫して赤字を計上してきましたが、2020年以降は旅行収支の黒字幅縮小が痛手となり年間6兆円に迫るペースで赤字を計上しています。では、仮に旅行収支が2019年水準へと戻れば、サービス収支が当時の水準に回帰できるかと言えば、その可能性は低いです。 その理由として、ここ数年デジタル関連支出が急増し「その他サービス収支」の赤字幅が拡大していることがあります。その他サービス収支の内訳で赤字幅が大きいのは「専門・経営コンサルティングサービス」、「コンピューターサービス」、「著作権使用料」であり、日銀によるとこれら3項目にはクラウドサービス、オンライン会議、検索サイトやSNS(および無料動画サイト)への広告料、有料動画、音楽配信サービスなどが含まれると言います。 主として米テック企業が提供するこれらサービスは、今や国民生活に広く浸透しており、この3項目だけで年間5兆円を超す赤字となっています。円安が進行すると、これらの支払いに対する負担が増し、国民所得が棄損する恐れがあります(同時にこれらの支払いに伴うドル買い需要が円安を促すという視点もあります)。 話を元に戻すと、ドル円が140円を超えて輸入物価への上昇圧力が高まると、日銀は現行の緩和策を維持することの説明が難しくなるでしょう。植田総裁が円安とどう付き合っていくのか未知数の部分は大きいですが、いずれにせよ6月と7月の金融政策決定会合は政策修正の可能性が高まったと判断しています。
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