強がらないで、休んでもいい──19年連続で自殺率ワーストだった秋田、当事者がつなぐ“命の糸” #今つらいあなたへ
「あくまで回復過程。だから相談者の方と一緒に悩みながら考えているんです」。ひきこもり経験がある男性のもとに届くLINEに浮かぶ「死にたい」という声。じっと画面を見つめ、言葉を交わしていく──。かつて19年連続で自殺率ワーストを記録した秋田県。直近発表の人口動態統計による2020年の自殺率では、全国で下位から10番目まで改善している。そこには悩める人を支える当事者の姿があった。(取材・文:ノンフィクションライター・西所正道/撮影:菊地健志/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ひきこもりからLINE相談員に
「僕はLINE相談の回答をするとき、ただ相談者に傘を差してあげてすぐに立ち去るのではなく、一緒に濡れながら、どうして一人で雨に濡れているかに耳を傾け、ともに屋根があるところを探しにいくというイメージでやっています」 秋田県で自殺対策の「くもの糸LINE相談」に応じる須田和夫さん(仮名・40代)は、緊張しながらもじっくり考え、そう答えた。自身も学生時代は不登校でひきこもり、自殺を図ったことも何度かある。派遣社員として社会に出たこともあるが、人間関係になじめず、数年後には再びひきこもるようになった。LINE相談員を担当し始めて1年半ほどになる。 最初はLINE相談員について「自分にできるかな」と疑心暗鬼だったという。にもかかわらず、なぜ相談員ができるようになったのだろう。
再出発できる場所を マレーシアから秋田へ
きっかけは、秋田県大仙市にあるひきこもりの自立支援施設「ふらっと」である。気楽に集まり、新しい働き方や生き方を考える場をつくりたいと、2013年にマレーシア出身の研究者・ロザリン・ヨンさん(46)がオープンした。 「日本のように豊かな国で、なぜひきこもりがいるのだろうと。それに自殺が多いこともわかった。不思議に思ったんです、なぜ幸せが感じられないのだろうって」
ロザリンさんがひきこもり問題に興味をもったのは、会社員だった2004年。休暇をとって日本を旅したとき、30代のひきこもり男性と出会った。 「私の子ども頃、マレーシアでは(日本や韓国から学べという)“ルックイースト”政策がとられていて、日本は豊かな憧れの国でした。ところが実際の日本人をみるとやや自信がない印象だったし、ひきこもりや自殺の問題を抱えていた。私も学生時代の一時期、ひきこもりぎみになったことがあり、ひきこもりって何だろう? と、関心をもちました」 働いていた製薬会社をやめ、香港大学で公衆衛生学を学んだ。その後は、東京大学大学院でも研究を深め、いまは秋田大学大学院医学系研究科助教を務める。 「ふらっと」の特徴は、不登校やひきこもりを経験した人(ピアスタッフ)が常駐していることだ。ロザリンさんが言う。 「家から出て、ここへ来て、何気ない時間の中でみんなの優しさに触れて、癒やされ、そして安心感が生まれる。“大丈夫だ~”と思って蓋をしていた心の内を自然に打ち明けられる。そんな中で相談をすると、自分の感情や情報を整理できて、自分が何に悩んでいたか、何をしたいかが見えるようになる。すると再出発の準備ができるんです」