強がらないで、休んでもいい──19年連続で自殺率ワーストだった秋田、当事者がつなぐ“命の糸” #今つらいあなたへ
1年ほど経過した頃からは、ヘルプをあまり受けなくても返答できるようになった。相談員をした後はぐったりと疲れる。それでもやめないのは、「自分が死のうとしたりして家族や友人に迷惑をかけた贖罪」の意味もあるという。 LINE相談員を始めて、須田さんのKindleライブラリには本が増えた。貧困にあえぐ人のドキュメンタリーや犯罪に手を染めた少女の贖罪が書かれた本など、世の中の現実が描かれた本を読む。相談者の苦しみをより理解したいと考えているからだ。 須田さんは週1回、LINE相談員をする。ただ、自分はまだ立ち直ったわけではないという。 「あくまで回復過程。だから相談者の方と一緒に悩みながら考えているんです」
19年連続ワーストから脱出、それでも減らない若者の自殺
秋田県は1995年から19年連続で自殺率が全国ワーストだった。危機感を抱いた市民が草の根的に県内各所で自殺予防を掲げるグループを結成し、研究者や県と「民学官」のタッグを組んで地道な自殺対策を続けた。その結果、2014年にワーストを脱出し、20年は戦後最少の172人となり、ピークの519人(2003年)から66%減。自殺死亡率も9ランク改善し、全国で下位から10番目になった。 だがなかなか減らないのが若者の自殺である。そこで20年夏から本格的に始まったのが「くもの糸LINE相談」だ。運営するのは、自殺予防に取り組むNPO法人「蜘蛛の糸」。理事長の佐藤久男さん(78)は、経営していた会社が倒産し、自殺も考えたことがある。その経験を相談業務に生かし、自殺対策に関わる県内の民間団体活動を牽引してきた一人である。これまで対面・電話相談中心だったが、若者が利用しやすいようにとLINE相談を始めた。
LINE相談を担当するのは18人。臨床心理士や精神保健福祉士、社会福祉士、産業カウンセラーいった有資格者に、ひきこもりの経験者が須田さんを含め2人関わっている。経験者だからこそわかる悩みや苦しみをすくい上げてくれるのではないか。佐藤さんはそう考えた。しかし当初は大丈夫かなと不安もあったという。 「でもやってもらったら、対応が丁寧で優しいの。体験者にしかわからない苦しみをちゃんと聞いてね。同じ目線でやりとりするから、悲しみは同じ目線の中にある。だから言葉をより深いところで理解できるんだと思います」