屋鋪要は江川卓のボールを「ズドーン」と表現 「重いボールが浮き上がるように伸びてくる。信じられない」
「ホームランは1本だけだと思っていたんですよ。最初に打ったのは覚えてないんですが、2本目にあたるホームランは覚えています。後楽園球場最後の年(1987年)で、ちょっと振り遅れてレフトに上がったんです。『捕られたかな』と思ったら、ギリギリスタンドに入ったという感じです。でも、あらためてこんなにヒットを打っていたとは思わなかった」 屋鋪は何度も、江川から放った26本の安打に対して、疑念を抱かずにはいられなかった。三振を27個していることを伝えると、「ヒットより多いね」とボソッと悔しそうに言った。 「僕はどちらかというと、速球派のピッチャーに強かったと思うんです。でも、江川さんがまだ入団したての頃はほとんど打ってないと思いますよ」 【江川さんの球はビューンじゃない】 とにかく屋鋪のなかでは、江川に抑え込まれたイメージしかない。実際に26本のヒットは、江川が肩を痛めた84年以降に積み上げたものが多い。打者心理として、ましてプロのバッターである限り、いくら晩年に打ったとしても投手の全盛期の球を打っていないとなんの記憶にも残らないのだろう。 トーナメントと違って、プロ野球はリーグ戦ゆえに一線級の投手と何度も対戦しなくてはならない。だから失投よりも決め球を打つことで、相手の自尊心をズタズタにして、少しでも優位な立場で打席に入りたいわけだ。これが勝負の鉄則である。 もちろん打順によって役割があるし、狙い球を絞るにもいろいろなタイプがいる。それでも打者としてプロの世界に入ってきている以上、相手投手の最高の球を打ちたいという思いは、誰もが持っているものである。 江川の球質について、これまで対戦したことのある選手に聞いてきたが、屋鋪にも尋ねてみた。 「なんだろうなぁ。音で表現すると、ビューンじゃないんですよね。ビューンからちょっとギュッと伸びてくるんじゃなくて、ズドーンって感じですかね。重い感じ。だから、高めのボール球を振っちゃいけないと思っていても手が出てしまう。ものすごい伸びがある感じですね。実際、伸びることなんてあり得ないんだけど、ギュイーンと伸び上がってくる感じはしましたね」