【毎日書評】知れば、激動の世界情勢が読み解ける「世界の政党」
近年は、世界情勢を把握するために欠かせないものとして地政学に注目が集まる機会が増えました。いうまでもなく、地理的条件をもとに世界情勢、国際政治を分析する学問のこと。 たしかに地政学は、ビジネスパーソンに必須の教養であるといえるでしょう。しかし、『教養としての世界の政党』(山中俊之 著、かんき出版)の著者は、「地政学の“主語”は大きすぎるのではないか」とも感じていたのだそうです。 世界情勢を地政学的な観点から見ていくと、主語は「国家」になります。とはいえそれでは主語が大きすぎるため、“いま”を読みたくための論点を見落とす可能性も否定できません。 もちろん、地理的条件、宗教、民族、歴史、経済はその国の政治や外交、世界との関わり方を考えるうえで欠かせない「公式」ですが、目まぐるしく変動する世界情勢には、いま現在に直結している「変数」が関わっているのではないかということ。 そして、その変数のひとつが「政党」だというのです。 1. 最新の世界情勢を読み解くには、地政学、宗教、歴史、民族、経済といった「公式」に、政党という「変数」を加えなければならない。 2. それには世界の政党を理解することが不可欠である。 3. 政党を通じて、その国や地域の実情がより立体的に見える。 (「はじめに」より) どのような政党があるかを知るだけで、多角的な視点を持ち、世界の潮流をより解像度を上げて読み解くことが可能になるということ。そこで、「世界97カ国から学んだ元外交官」という肩書きを持つ著者は本書において、政党についての基本的な情報をビジネスパーソンの視点から整理し、ポイントだけを絞って解説しているのです。 きょうは序章「政党とは何か?」に焦点を当て、政党についての基本的な事柄を確認してみたいと思います。
政党次第で、国、世界、歴史が変わる
気候変動問題、大国や周辺国との外交関係、安全保障、性的マイノリティへの対応、企業のグローバル展開、あるいは小さい政府、大きい政府、企業への補助金、税率。いずれもビジネスに密接に関係するテーマです。政党によって、政策は大きく異なってきますし、それによりビジネスにも大きな影響を及ぼします。(38ページより) そして経済について見た場合、経済不振で混沌とした世の中では、極端な政党が誕生しがちでもあるのだとか。 理由は簡単で、極端なことは「わかりやすいから」「人々の不満を吸収しやすいから」です。いうまでもなくこれは、現在の世界で吹き荒れているポピュリズム(大衆迎合)とも密接に関係しているわけです。 このことに関連し、著者はわかりやすい例を上げています。 たとえば、くつろいでいる午後8時、夕飯中にいきなり停電したとします。延々と暗いまま、ネットもテレビも繋がらず、電話回線もアウト。何ひとつ情報もなかったらどうでしょう? 「ダメージ+先行き不透明」という状況は、パニックが起こりかねないほど、人を不安にさせます。曖昧な状態に長く耐えられるタフな精神力の持ち主は、そう多くありません。 逆にいうと、たとえ悪い知らせであっても現状がわかればホッとします。スマホに「大きな地震を感知したため、安全状況を確認しております」と自治体から通知が来たら、とりあえず落ち着けるのです。(42ページより) これを政党に当てはめてみましょう。極端な主張をする政党のなかには、白か黒かに単純化した主張を大声で述べ、「悪いのは〇〇だ」と仮想敵をつくり出し、自分たちの権利を守ろうとするケースも少なくありません。その結果、大衆に好かれるポピュリズムの評価が上がるのです。 かつてヒトラーのナチスが、ユダヤ人のせいで貧富の差が発生していると主張し、「反ユダヤ主義・反社会主義・植民地の再分割」を訴えたことがそのいい例。結果的にはナチスが政権を握り、ヒトラーがトップに立ったことで、世界は大きなうねりに巻き込まれていったわけです。 ここからもわかるように、政党とはその国のありようも世界の歴史も変える、大きな影響力を持っているのです。(38ページより)