あの日は、つい、政局について考えてしまった──突然の事故から6年、元自民党総裁・谷垣禎一の今
自民党元総裁、谷垣禎一(77)。幹事長を務めていた2016年の夏、自転車事故で頸髄を損傷し、重度の障害を負った。かつて首相候補とも目された大物政治家は現在、リハビリを続けながら、静かなリタイア生活を送る。さまざまな問題を抱える令和の日本を、どう眺めているのか。そして今、人生の喜びとは何だと思うか。激動の政治家人生を終えた男は、車椅子の上で微笑み、優しく語りかける。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
人間80歳を過ぎれば、寝たきりなんてこといくらでもあるでしょう
梅雨明け間もない酷暑の昼下がり。 東京都内にある自宅を訪ねると、電動車椅子に乗った谷垣本人が、グリーンのサイクルウェア姿で現れた。右手でジョイスティックレバーを操縦し、自在に動き回る。事故の後遺症で、下肢は動かしづらい。手にもまひがあるというが、表情ははつらつとしており、実年齢よりもずいぶん若々しく見えた。
障害者になって、丸6年。家族と訪問介護ヘルパーに助けられながら日々を過ごす。脊髄損傷専門のトレーニングジムと病院に通い、リハビリをすることが生活の中心だ。 「自分の足で歩くことが一つの目標。一進一退ですけど、ただでさえ人間80歳を過ぎれば、寝たきりなんてこといくらでもあるでしょう。私は今、77歳ですから、日々、己に鞭を打っていないと、まったく歩けなくなってしまうと思うんです。人間の体というのは、自分でもどうなるのか分からないところがあるんですけど、今は脳から筋肉へ神経系統が適切に送れない状態。左手なんかも、ほとんど動かない。それでも、神経ってがんばっているんですね。本来なら動くはずの部分が動かないから、これは私の感覚ですけど、『お前こっちがんばれ』って、別の部分にそういう指示を出しているんだと思うんです。そうすると、今度は神経が何していいか分からなくなっちゃって、うまくいかないこともある(笑)。そういうことの試行錯誤。そういう中で、どう筋道をつけていくかっていう……言ってみれば、気が遠くなるような作業をやっている。でもそれは、楽しいんですよ」 学生時代は山岳部で鳴らしたスポーツマン。代議士になってからも、忙しい合間を縫って趣味のサイクリングにいそしんできた。若い頃から体づくりを積み上げたからこそ、リハビリすら攻略すべきスポーツのように捉え、取り組むことができるのだろう。 あの事故は、突然の出来事だった。