「良いガス、良い圧縮、良い火花」ガソリンエンジンの最新技術が面白くなる“魔法の言葉”
自動車メカニックには、エンジントラブルの原因を見つけるための3つの原則がある。整備の現場では大昔から言われている言葉だ。その大原則は極めてシンプル「良いガス、良い圧縮、良い火花」。 【図解】エコカーエンジン「石油編」 130年の歴史と技術革新 この3つが揃えばエンジンは調子良く回る。つまりエンジンの調子が悪いのはこの内のどれかにトラブルを抱えているということだ。この3原則が修理や整備だけでなく、最新のガソリンエンジン技術を理解するためにもとても役に立つのだ。まさに温故知新、今回はまず「良いガス」の話だ。「1ccのガソリンでエンジンは何回転するか」なんて話は多分みんな興味があると思う。
「良いガス」とは?
基本的に3つの順番は、エンジンの作動のプロセスをなぞったもの。空気を吸ってガソリンと混ぜて、それを圧縮して、プラグで着火する。ガスというのは前述の通り混合気、つまり空気とガソリンが混じったもの。 これが理想的な比率でよく混ざっていれば良いガスになる。空気とガソリンの最適な比率は重量比で14.7:1と決まっている。これを「理論空燃比」と呼ぶ。中学校の理科で習った過酸化水素の「2H2O2」→「2H2O+O2」みたいなもので、燃焼という化学反応に関わる分子の比率がちょうどいい。まさに大正義であり唯一解みたいなものなのである。 空気14.7グラムに対してガソリンが1グラム。14.7グラムの空気の体積は計算上だいたい12リッターくらい。おおよそなのであまり意味は無いけれど、計算した時は、乾燥した平地の空気で気温20度前後の場合を想定している。 空気の量は2リッターのペットボトルが6本入ったあの箱くらい(隙間は無視)で、そこに1ccのガソリン=小さじ1/5を加えて、最近の高性能車だと体積1/12位まで圧縮するから、燃焼前の混合気は1リッターということになる。
薄くした方が燃費は良くなるが
乱暴ついでにあくまでもイメージ上でガソリンの燃えるペースとエンジンの回転の関係を考えてみる。本当は各種条件で充填効率が違うのだけれど、とりあえず吸入効率を100%と仮定すると、排気量3リッターのエンジンはクランク2回転=720度で全部のシリンダーが、吸入から排気までの行程を終えて、排気量通り3リッターの空気を吸い込むことになる。 とすれば、1グラムの燃料と釣り合う12リッターの空気を燃やす間にクランクは8回転することになる。これは先ほど書いたように理論空燃比14.7:1の場合だから、一時期流行った希薄燃焼(リーンバーン)のピーク値のように空燃比が65:1だったりすると、それはもう大変なことになる。インチキ計算上は同じ1グラムのガソリンでクランクが35回転もしてしまうことになるのである。そりゃ燃費が良くなるわけである。 なるほどリーンバーンはスゴイ。ついでに言えば、薄くなったために、フォークダンスで言えば男子同士のペアになってしまった14.7:1の余りの空気は、カップル成立の「良いガス」の熱で加熱されてやむなく膨張する。いや変な意味では無く。 燃焼の熱エネルギーで空気を膨張させてピストンを押し下げる力は、これまで排気として捨てていたものだから、熱回収の面でも多少の効果はあるはずである。つまりただのケチケチ作戦じゃなくて効率も上がるのだ。 しかし、そうは問屋が卸さなかったのは理論空燃比つまり「良いガス」を外れたら、排気ガスが汚くなったのだ。普通に考えるとガソリンが少ない方が排気がきれいになるように思うだろうが、なかなかそうならない。 炭化水素(HC)は要するに燃料の燃え残りだから、空気が多いほど、つまり薄いほど出にくいし、一酸化炭素(CO)だって酸素不足が原因だから薄いほど良い。が、だからと言って薄くしていくと、燃えにくくなって着火ミスが起きる。いくら空気が沢山あっても、こうなると全体がくすぶってちゃんと燃えないから酸素が足りないのと同じで、前述のHCとCOが発生する、加えてこういう状況では窒素酸化物(NOx)と黒煙(PM)まで出る。リーンバーンはちょっと条件が厳しくなると火が付かないのが大問題なのだ。