「良いガス、良い圧縮、良い火花」ガソリンエンジンの最新技術が面白くなる“魔法の言葉”
「良いガス」じゃないと困ること
理論空燃比であれば、分子の比率的に正しいので、そもそもそうしたガスの発生が少ない上、最も燃えやすい状態だから失火が起こり難くくすぶりにくい。しかも排ガスの救世主である三元触媒が絶好調で働いてくれる環境である。 触媒とは中学校の過酸化水素の実験に使った二酸化マンガンみたいなものである。分子式そのものに関与はしないけれど、化学反応を促進して、燃え残りがでないようにしてくれる。HC、CO、NOxの3つ全部に効くから三元と言う。 COとHCだけなら、失火しない範囲でできるだけ薄くすれば良いのだが、そうすると今度はNOxが急降下する。全部に都合の良いゾーンは結構ピンポイントなのである。例えるなら忙しい人たちのスケジュールを調整するようなものだ。 調整する側から見るとNOxさんがフリーダム過ぎるのである。リーンバーンで残存酸素が多くてもCOとHCは酸素をもらって浄化されるのでいいのだけれど、NOxは触媒に酸素を置いて行くことで浄化される。だから触媒がこれ以上酸素を持てないほど持ってしまってからやってくるNOxには働きかけることが出来ない。 結局は、三元触媒は14.7:1の「良いガス」の時しか上手く働かないのだ。リーンバーンは低燃費が実現できるけれど、残存酸素が多いので三元触媒が働かない。しかも失火のせいでガソリンエンジン車でありながら急加速では黒煙が出るような規制ギリギリ状態になってしまう。低燃費とは本来、環境対策なのだから、そのために“毒ガス”を出しては本末転倒だ。 折悪しく2007年に排ガス規制がさらに厳しくなった。これまでの技術ではどうやっても規制を通らない。頼みの綱の三元触媒がダメなら、他の方法を採るしかない。特にNOxが問題だ。 NOxを低減して規制をパスするにはディーゼルエンジン並の後処理装置、NOx吸蔵触媒とか尿素SCRとかの新たな排ガス処理装置が必要になるが、これで新規制に対応するとエンジンのコストがべらぼうに高くなる上、燃費や使い勝手の制限も出る。燃費の悪いリーンバーンなんて自己否定が過ぎる。かくしてリーンバーン・エンジンは採算と矛盾の辻褄が合わなくなって消えて行った。