じつは「戦果」が目的ではなかった…「特攻」を強行した大西瀧治郎中将の意外な「真意」
日本民族の将来を信じて
「これ(特攻によるレイテ防衛)は、九分九厘成功の見込みはない。これが成功すると思うほど大西は馬鹿ではない。では何故見込みのないのにこのような強行をするのか、ここに信じてよいことが二つある。 一つは万世一系仁慈をもって国を統治され給う天皇陛下は、このことを聞かれたならば、必ず戦争を止めろ、と仰せられるであろうこと。 二つはその結果が仮に、いかなる形の講和になろうとも、日本民族が将に亡びんとする時に当たって、身をもってこれを防いだ若者たちがいた、という事実と、これをお聞きになって陛下御自らの御仁心によって戦を止めさせられたという歴史の残る限り、五百年後、千年後の世に、必ずや日本民族は再興するであろう、ということである。 陛下が御自らのご意志によって戦争を止めろと仰せられたならば、いかなる陸軍でも、青年将校でも、随わざるを得まい。日本民族を救う道がほかにあるであろうか。戦況は明日にでも講和したいところまで来ているのである。 しかし、このことが万一外に洩れて、将兵の士気に影響をあたえてはならぬ。さらに敵に知れてはなお大事である。講和の時機を逃がしてしまう。敵に対してはあくまで最後の一兵まで戦う気魄を見せておかねばならぬ。敵を欺くには、まず味方よりせよ、という諺がある。 大西は、後世史家のいかなる批判を受けようとも、鬼となって前線に戦う。講和のこと、陛下の大御心を動かし奉ることは、宮様と大臣とで工作されるであろう。天皇陛下が御自らのご意志によって戦争を止めろと仰せられた時、私はそれまで上、陛下を欺き奉り、下、将兵を偽り続けた罪を謝し、日本民族の将来を信じて必ず特攻隊員の後を追うであろう。 もし、参謀長にほかに国を救う道があるならば、俺は参謀長の言うことを聞こう。なければ俺に賛成してもらいたい」 「私は生きて国の再建に勤める気はない。講和後、建て直しのできる人はたくさんいるが、この難局を乗り切れるものは私だけである」 「『大和』、『武蔵』は敵に渡しても決して恥ずかしい艦ではない。高松宮様は戦争を終結させるためには皇室のことは考えないで宜しいと仰せられた」 角田は、目を瞠るような思いで小田原参謀長の話を聞いた。 話を要約すれば、特攻は「フィリピンを最後の戦場にし、天皇陛下に戦争終結のご聖断を仰ぎ、講和を結ぶための最後の手段である」ということだ。だとすると、特攻の目的は戦果ではなく、若者が死ぬことにあるのか――。 「うまいこと言われて、自分も欺かれてるんじゃないか」 ふと疑念が浮ぶが、しかし、特務士官1人を特攻で殺すためだけにここまで立ち入った話を参謀長がするとは思えない。 気になったのは、上野中将がこの席で一言も口を開かなかったことである。角田の知る上野は、かつては部下に進んで声をかけ、細かな注意を与える上官だった。その上野がずっと黙ったままでいることは、角田には少々奇異に感じられた。