全員マスクでも見分ける方法はあるーーコロナ禍でも減らない需要、探偵業のいま
外出自粛が促される昨今、さまざまな業界に影響が及ぶ。特にテレワークへの移行が難しい業種にとっては、死活問題にも直結しかねない状況だ。たとえば、現場に出向き「足で稼ぐ」仕事を必然的に伴う探偵業。探偵といえば思い浮かぶ「尾行」も人混みがなければ、紛れることすらままならない。街から人が消えた今、探偵社の調査員たちはどうしているのか。(取材・文:山野井春絵/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「人捜し」の依頼が増えてきている
「仕事量は、例年とそんなに変わらないと思います。相談員が交代でテレワーク対応するほか、書類の共有もネットでできます。直接お会いすることのハードルはありつつ、相談事はやはり多いんです」 全国展開する業界最大手「原一探偵事務所」のベテラン調査員・菊地正志さんは言う。 「コロナ禍で企業系の調査依頼は減っていますが、逆に『所在確認』、つまり人探しの依頼は増えてきています」
背景には、明らかに緊急事態宣言の影響があるという。 「例年、ゴールデンウイークが終わると、子どもの家出調査依頼が増えていたんですが、今年はその代わりに大人の失踪が目立ちます。資金繰りが苦しくなってくると、失踪者が増える。飲食店をはじめとして、自粛を余儀なくされている業界の経営者に、その危険はとても多いと想像できます。深刻化するのはこれからだと言われていますが、その序章としての相談内容は、もうあるんですよ」 今後は命に関わる調査が増えると思う、と菊地さんの表情は厳しい。 「最近は、路上生活者の方々に向けた公園の“炊き出し”も減っていますが、食べるものに困って、そうした場所でうずくまっている人を最近捜し出したばかりです。失踪者増は自殺者増につながるので、人捜しの専属チームを使い、全国的な調査をする準備を進めているところです」
マスク着用も「耳」で特定、Uber Eats風の尾行も
探偵といえば、尾行。街から人が消えた今、その方法がやや困難になっているのが現状だ。 菊地さんと同じ原一探偵事務所で、長年のキャリアを持つ調査員・岡田健太さんも、「普段より気を使う」と話す。 「不審な行動をすると相手の記憶に残ってしまうので、とにかく目線を合わせず、自然体でいるのが気づかれないコツ。例えば電車で真横に座った人のことをいちいち覚えてませんよね? 普通にしていれば、目に入っても意識はされません。ところが、電車内や繁華街が閑散としている今は、どうしても目立つ。無線を使い、複数人交代で前後左右に分かれて尾行したり、機材や車両を増やして張り込んだりしています」 時には、配送や水道工事業者を装った車両や宅配ピザを装ったバイクなども用意する。宅配ピザは、衣装や箱まで完璧に用意して、住宅街に紛れ込む。