今年もISSが肉眼で見られる ── 滞在中の大西飛行士のミッションは?
「溶かしたものがふわふわと飛んでいくのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。高温のものが跳んでいたら危ないですよね。ですが、図のように、試料をプラスの電気で帯電させているため、試料の位置が少しでも上電極のマイナス側に引き寄せられたら、即座に電極の電圧を調節し、真ん中に試料を戻す電極の状態を作ります。 静電浮遊炉を使った実験で得られる熱物性のデータは、溶かした材料を型にいれて成形する鋳造と呼ばれる工法で、航空機などのジェットエンジンのタービンなどを作るときに応用できると期待されています。 タービンをつくる上で要となる材料が熱耐性の高い合金です。合金の物性データをもとにコンピューターシミュレーションをすることで、品質の良いタービンを鋳造するための最適条件を探し出すことができます。タービンの品質が良くなれば、性能の良い飛行機をつくることにつながります。宇宙で行なわれている実験が、地球で使う技術の開発に役立つと期待されているのです。 静電浮遊炉は「きぼう」日本実験棟に導入されたばかりのため、大西飛行士は装置の初期点検を行います。装置の初期点検・検証作業の後は、さまざまな材料での実験が行われる予定です。
【小動物の飼育ミッション】
微小重力環境下で、ほ乳類の体がどのように変化するかを詳細に調べることを目指して、「きぼう」でマウスを長期飼育するミッションです。 「きぼう」日本実験棟には、昨年に油井飛行士が事前に検証した装置があります。この装置は「きぼう」で2つの環境に置かれます。一つはISS内と同じ微小重力の環境、もう片方は地球と同じ1Gの重力を人工的につくった環境です。
大西飛行士はそれぞれの装置でマウスを40日間飼育する作業を支援します。その後、2種類の環境で飼育されたマウスを地球に戻し、どのような差がでているか遺伝子レベルで調べていきます。特に、骨や筋肉に関わる遺伝子の働きにどのような変化があるかを中心に調べます。 なぜ骨や筋肉の遺伝子を調べるかというと、これまでにISSに滞在してきた宇宙飛行士の身体的な変化があるからです。微小重力環境では、骨密度が骨粗しょう症患者の10倍のスピードで減っていきます。さらにふくらはぎの筋肉はたった1日で、高齢者の半年分に匹敵する減少量を示すことが分かっているからです。 マウスを使い遺伝子レベルでそのメカニズムを詳しく解明し、薬や対策法が見つかれば、人類はより長く宇宙空間に滞在できるようになるかもしれません。そうすると、単純な往復時間でも最低1年6か月(※)はかかるといわれている火星探査も、一歩、現実に近づくかもしれません。(※NASA「Mars Planning Frequently Asked Qestions」より) この骨や筋肉の研究は、宇宙で暮らすことだけでなく、地上で元気に暮らし続けることにも役立つと期待されています。地上にいても、歳をとるにつれ、骨密度や筋肉量が徐々に落ち、日常生活に支障をきたすことがあります。骨密度が極端に少なくなる骨粗しょう症の患者数は、日本だけでも高齢者を中心に1300万人(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)と言われているほどです。より良い治療方法が見つかれば、大きな手助けとなるでしょう。