受け継がれる 生物の楽園 藤前干潟 水辺の物語
水鳥の聖地としてラムサール条約に登録されて、22年になる「藤前干潟(ふじまえひがた)」。愛知県西部から伊勢湾に流れ込む庄内川、新川、日光川の河口にあり、最大時には甲子園球場の約62個分にあたる238ヘクタールの干潟が出現する。多くの水鳥や渡り鳥がみられるが、ここまでの道のりは平坦(へいたん)なものではなかった。 【動画でみる】「藤前干潟(ふじまえひがた)」 受け継がれる 生物の楽園 昭和59年、名古屋市が干潟を一般ごみの埋め立て用地とする計画を発表、市民らによる保全運動が巻き起こる。平成11年に計画は撤回され、官民による熱心なごみ削減活動が始まった。14年11月には、国内12カ所目となるラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に登録された。 取材した11月は夜から明け方に潮位が下がる時期で、月明かりを頼りに河口にレンズを向けると、ファインダーに広大な干潟が浮かび上がった。 日中はNPO法人「藤前干潟を守る会」が主催する体験プログラム「カニさんを観察してみよう!」に参加した。 守る会では、干潟の案内人、継承者として「ガタレンジャー」を養成している。高校1年生でガタレンジャーの中村匠さん(16)が「生きものたちと仲良くしよう」とパネルを掲げ、理事の戸苅辰弥さん(54)は「干潟に入るときは、おじゃましますとあいさつしましょう」と参加者に呼びかけた。 スタッフや親子連れなど約20人が、直径20センチほどの石をひっくり返すと、いたるところでカニが顔をのぞかせる。1時間ほどで集めた生きものは、ベンケイガニやタカノケフサイソガニ、ユビナガホンヤドカリなど。 「おじゃましました」とあいさつして干潟を出ると、戸苅さんが名前や雄雌の見分け方を説明してくれた。 近年は切れたまま残された釣り糸が野鳥の首や足に絡まったり、漂着するプラスチックごみが脅威だという。定期的に清掃も行われている。 中村さんに将来はと問うと「小学生のときにプログラムに参加してガタレンジャーになりました。ここで培ったことを糧に、南極でさまざまな採集活動をして自然や生物の研究に貢献したい」と話す。 若い世代に「自然と共存していこう」という意識の輪が、少しずつではあるが確実に広がっている。(写真報道局 山田耕一)