「心を動かされた」驚きでしかないコモのビッグプロジェクト。「ディズニーのような組織に…」セスクと歩む覚悟の1年【コラム】
欧州有数のリゾート地として知られているコモ。そこには地名と同じ名前のサッカークラブが存在する。一時は財政破綻でセリエD落ちを余儀なくされたコモは、21年ぶりにセリエAに帰還した。1907年創設という古い歴史をもつコモのセリエA復帰までの歩みとは? そして「ヨーロッパで最も魅力的なプロジェクト」とは?(文・佐藤徳和)
⚫️21年ぶりに帰ってきたセリエA
コモが21年ぶりにセリエAに帰ってきた。23/24シーズンのセリエBを2位でフィニッシュし、優勝の座こそパルマに明け渡したが、堂々のダイレクト昇格で、トップリーグへと返り咲いた。 前回昇格時の01/02シーズンは、セリエBを制して11年ぶりにセリエAに復帰したものの、翌シーズンは18チーム中17位に終わり、1年であっけなく降格。さらに、03/04シーズンも24チームの中で最下位に沈み、そこから暗黒時代に突入。当時の呼称でレガ・プロ・プリーマ(3部リーグ)やセコンダ(4部リーグ)だけでなく、クラブ破産によりセミプロのカテゴリー、セリエD(5部リーグ)での登録も余儀なくされた。 しかし、今回の昇格は、前回の時とはクラブの置かれた状況が違えば、彼らの野心も異なるものだ。それは、チームの陣容を見れば一目瞭然。単に残留を目標とするクラブではなくなったのだ。 クラブ名と同名の地名のコモは、イタリアだけでなく、欧州有数のリゾート地で名を馳せる。インテルやミラン、アタランタ、モンツァが本拠地を置く、ロンバルディーア州の北部の町だ。漢字の“人”の形をした、コモ湖の周辺には、世界各国の著名人の別荘が建ち並び、アメリカ人俳優のジョージ・クルーニーが、2002年に1,000万ドルとも言われる邸宅を購入したことは有名だ。
⚫️驚きしかない、ヨーロッパの舞台とは無縁のクラブを…
この静謐で壮麗な景勝地がざわついたのは、2019年4月。ロンドンを拠点とする英国企業のSENTエンターテイメントが、コモの経営権を取得したからだ。この企業を背後で操るのが、ハルトノ家。インドネシア一番の富豪で、84歳マイケル・ハルトノと、クラブの会長を務める83歳のロバート・ブディ兄弟の保有資産は、昨年12月の時点で480億ドルに達していた。たばこの製造販売で財を築き、金融業や不動産開発も営む、インドネシア3大財閥の1つ、ジャルム・グループを率いる億万長者だ。 クラブは、2016年の破産宣告を受け、セミプロリーグのセリエDからの再スタートを強いられていた。2017年には、マイアミを拠点とする起業家のマッシモ・ニカストロが会長の座に就いたが、世界長者番付にも名を連ねる資産家が、1907年創設以来、トップリーグの在籍は15回、最高位は1950/51シーズンの6位とヨーロッパの舞台とは無縁のクラブを買い取ったのだから、驚きしかない。かくして、人口8万人のコモの町は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。 新生コモは、ハルトノと同郷のエリック・トヒル政権下にあったインテルでチーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)を担ったマイケル・ガンドラーを新しい最高経営責任者(CEO、2021年2月に退任)に迎えた。このアメリカ人CEOの主導の下、クラブはインフラの整備に着手。新トレーニングセンター建設のために、300万ユーロ(約4億8000万円)が投資され、2021年6月には、コモ市から南に25キロにあるモッツァーテ市に作られた。 一向にプロジェクトが進まない、従来のイタリアのクラブ経営では考えられない、驚くべきスピードだ。また、本拠地、シニガッリア・スタジアムの芝も張り替えられ、クラブには、新たに50人ものスタッフが採用されている。さらに、オフィシャルストアをコモ市内のドゥオーモ(町の一番重要な教会)の近くにオープンし、マーチャンダイジングにも力を注いでいる。