「心を動かされた」驚きでしかないコモのビッグプロジェクト。「ディズニーのような組織に…」セスクと歩む覚悟の1年【コラム】
⚫️世界的名選手と地元出身の将来のバンディエラ候補
シーズン終盤に大富豪のオーナーを迎え入れた18/19シーズンは、セリエDグループBで優勝を遂げセリエCに昇格。19/20シーズンこそ13位に終わり連続昇格は逃したものの、21/22シーズンは、セリエCグループAを制覇。6年ぶりにセリエB復活を果たした。 そして、21/22シーズンを13位で終えたその夏、コモだけでなく、欧州サッカー界を驚かすニュースが発せられる。アーセナル、バルセロナ、チェルシー、モナコと渡り歩き、スペイン代表としてワールドカップも制したセスク・ファブレガスが、コモに加入したのだ。当時、34歳だったセスクは、入団会見でこう語っている。 「このクラブをセリエAに導くために私はやってきた。コモは、長期に渡るプロジェクトを持っており、それは、まさに自分が欲していたものだ。いつか、監督になって経験を積むつもりだ。そして、クラブの経営に参画し、契約を結んだ2年以上は残りたいと思っている。クラブのプロジェクトを魅力に感じている。このチャンスを活かしたい」。その言葉に嘘偽りは一切なかった。 さらに、フランス代表のレジェンド、ティエリ・アンリを株主の一人に迎えたコモはこの2022年の夏、ミラン出身で、ウォルバーハンプトンでもプレーした経験を持つパトリック・クトローネも獲得する。コモ県のコムーネの一つで、コモ市近隣のコルベルデの出身であり、U21イタリア代表で11ゴールをマークした点取り屋だ。 「コモの町にサッカー選手として戻ってこれたことは、とてつもない喜びだ。自分が育ち、ボールを初めて蹴った場所だからだ」。世界的名選手と地元出身の将来のバンディエラ候補の獲得。この2人を手に入れたことが、2年後のセリエA復帰に向けて、絶大な威力を発揮することとなるのだ。
⚫️無謀に思われた”賭け”
22/23シーズン、セスクは、セリエBで17試合の出場で、うち先発出場は9試合に留まった。ネットを揺らすことはなく、アシストは2つだけだった。クトローネも、アルベルト・チェッリと並ぶチーム最多得点を挙げたが、9ゴールに終わり、チームは2年連続の13位と昇格は叶わなかった。 そして、2023年7月、セスクは現役生活に終止符を打ち、コモのプリマベーラを指揮することとなる。さらに、11月、チームは6位につけていたものの、クラブはモレーノ・ロンゴ監督を電撃解任し、セスクを内部昇格させる。UEFAプロライセンスを未取得のため、ウェールズ人のオシアン・ロバーツ監督のアシスタントコーチという肩書で、チームの指揮を執ることになった。監督業をスタートして1年にも満たないセスクの抜擢は、一見無謀にも思われたが、この”賭け”が、功を奏すこととなる。 第30節のピサ戦から5連勝を飾り、終盤戦を2位で迎える。ラスト2試合は引き分けとなるが、最終節で、3位ベネツィアがスペツィアに1-2と敗れたため、コゼンツァと1-1で引き分けたコモが最終的に2位で終えることに成功。この1年の戦いを象徴するように、ドラマチックに昇格を決めた。 セスクは選手としては、全盛期のプレーを披露することはできなかったが、指導者として、勝者のメンタリティーをチームに植えつけることに成功した。クトローネは、14ゴールをマーク。このシーズンのセリエB最優秀選手にも選出され、まさに獅子奮迅の活躍を見せた。親戚から"ポケモン"のニックネームを授けられたクトローネは、「昇格は、最も素晴らしい瞬間の一つだった。すぐに兄と母に会い、3人で抱き合って涙がこぼれた。2年前に父が他界し、家族にとっては辛い日々が続いたから」と父の死を乗り越えての昇格であったことを明かしている。