「吃音は意識しなければ治る」とタブー視され…「注文に時間がかかるカフェ」発起人・奥村安莉沙が歩んできたいばらの道
奥村さん:英語と日本語、両方の治療を進めました。病院に通った1年半くらいで、ほぼ吃音とはわからないくらいに改善しました。その後は自宅で毎日トレーニングを重ねています。でも、今日は調子がいいほうです。日によって波があるので。
■メルボルンのカフェでの接客体験を日本でも ── オーストラリアでは念願だったカフェでの接客業を体験されたそうですね。 奥村さん:はい。私が滞在していたメルボルンはカフェの街としても有名だったのですが、留学先の学校であるカフェの存在を知り、接客を体験することができたんです。そのカフェではハンディキャップがある人、病気がある人、ホームレスの人たちが就労支援のために接客のお手伝いをすることができて、報酬はお金ではなくてカフェメニューの一品でした。いろいろな事情を抱えた人がいて、私の英語が吃音でも誰も気にしないんです。
カフェでシフトがよく一緒になった年上の男性オーストラリア人がいました。言葉がなかなか出てこない人だったのですが、身振り手振りで楽しそうに接客をしていました。接客業というのはスラスラ話せなくてはいけないという固定概念があったなかで、彼を見て、こういう接客スタイルもありなんだ!と気づいたことが、日本で吃音者のカフェを開くヒントになりました。 ── 帰国後、吃音の若者がスタッフとして企画・運営する1日限定の「注文に時間がかかるカフェ」を開催され、今年で3年目です。今後の夢を教えてください。
奥村さん:私は10~20代の頃に諦めてきた夢がたくさんあるので、吃音のある若者たちと一緒に今ひとつずつ叶えています。その夢のひとつがカフェの接客でした。 次の具体的な夢は、「発表」です。中学生の頃の絵画コンクールの話をしたように、今までは発表する場が嫌だったので、うまく逃げてきたんです。「注文に時間がかかるカフェ」の大学生スタッフに話を聞くと、最近は大学で発表する場がものすごく多いらしくて、そういう子たちと一緒に発表する場を持てたらと考えています。
これからも吃音があるみんなと一緒に少しずつ夢を叶えていけたらいいなと思っています。 PROFILE 奥村安莉沙さん おくむら・ありさ。「注文に時間がかかるカフェ」発起人。幼少期から吃音に悩み、友人関係や就職活動に苦戦する。2016年オーストラリアに語学留学し、吃音治療を進める一方で念願だったカフェでの接客業を経験。2019年に帰国後、会社員のかたわら吃音啓発活動を開始。2021年に吃音のある若者たちが接客に挑戦できる1日限定カフェ「注文に時間がかかるカフェ」を実施。現在は吃音理解を深める活動に専念し、全国各地を飛び回る。 取材・文/富田夏子 画像提供/奥村安莉沙
富田夏子