「吃音は意識しなければ治る」とタブー視され…「注文に時間がかかるカフェ」発起人・奥村安莉沙が歩んできたいばらの道
── 書籍『注文に時間がかかるカフェ たとえば「あ行」が苦手な君に』の中で、奥村さんが中学生の頃コンクールの絵がうまく描けたのに、もし入賞してしまったら全校集会で発表して笑いものになるという恐怖感から、わざと下手に描き直したというエピソードに胸が痛くなりました。 奥村さん:相手にどう反応されるだろうと思うと、発表する場が特に怖かったんです。人前で発表して吃音が出てしまったときの反応というのは、小さい頃から何度も積み重ねてトラウマになっていたので、なるべくそういう場面を避けようとしてきました。実は私は人と話すことが好きなのに、発表や接客といった場面を避けなければいけないという葛藤をずっと抱えていたんです。接客をしてみたい、カフェで働いてみたいという思いは、当時からずっとありました。
■自己紹介ができずに落ち続けた就職活動 ── 就職活動に落ちた数は200社にもなるそうで…苦労されたのですね。 奥村さん:就職活動中は、一次面接で落ちることの繰り返しでした。最初はどこもグループ面接で、自分の名前と出身校と志望動機を2分で言う、といった内容なのですが、あ行が苦手な私は自分の名前「奥村安莉沙」を2分で言いきることができなかったんです。どうにか1社、介護サービス事業の会社に受かって働くことになりました。
── その介護の仕事中に、バイク事故で命の危険を感じるできごとがあったとか。 奥村さん:訪問介護の仕事が終わって原付バイクに乗り、事務所に戻る途中でした。その日はかなり雨が降っていて道がぬかるんでいたため、赤信号で停まろうとしたときにぬかるみにタイヤを取られ、停車しているダンプカーの下に滑り込んでしまったんです。それほどスピードは出ていなかったので大事故というわけではなかったのですが、起き上がることがなかなかできなくて。周囲の人に助けを求めようと思ったら、声が出なかったんです。吃音の重さは日によって波があるのですが、その日は調子が悪かったためひと言目がどうしても出なくて。「このままではまずい」と焦っていたら、たまたま通りかかった人が気づいて、トラックの下から引っぱり出してくれました。