岩下志麻「夫・篠田正浩と19歳で出会い、マンボを踊って〈この人だ〉と。結婚を決めたのは〈女優をやめろ〉と言われなかったからかも」
◆一緒につくった映画を観ながら 篠田は72歳で監督業を引退し、その後は執筆や大学で教える仕事が主になりました。自分が現場を離れ書斎での仕事が増えても、私のことは変わらず応援してくれます。「また仕事か」みたいな空気を出されたら、出かけづらいですよね。でも、そういう感じは一切ありません。 若い頃には夫婦喧嘩もしましたよ。篠田は教えるのが好きで、ゴルフでも麻雀でも、後ろで《監督》するんです。あんまりうるさいので、ゴルフ場でクラブを投げ捨てて帰ってしまったこともあります。(笑) 篠田はせっかちで、私は「駆けずのお志麻」とあだ名がつくほどのんびりしているので、イライラするんでしょうね。一緒に外出する際も、篠田に「出かけるよ」と声をかけられてから20分くらい待たせてしまうので、篠田に「遅いなあ」と小言を言われて喧嘩が始まるんです。 その篠田も93歳になり、年齢とともにいろんなことがゆっくりになりました。今は私とテンポが同じくらいで、ちょうどいいの(笑)。それぞれが家の中で好きなことをして過ごしています。私自身、今は「岩下志麻」ではなく「篠田志麻」としての時間が増えてきましたね。 最近は、昔一緒につくった映画を観ながら、「若かったからやれたんだね」などとよく語り合っています。作品は二人の大切な財産。女優をやめていたら、この財産は残らなかった。 篠田は金婚式の時、「映画という魔物を追いかけて過ごしてきた夫婦生活だった」と言いましたが、まさにその通りです。私たちは同志であり戦友であり、二人同じ方向を見て生きてきた。それが、私たち夫婦にとっての《結婚》だったと思います。 (構成=篠藤ゆり、撮影=浅井佳代子)
岩下志麻
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