SNSに適応できず、しんどくなる子もーー小・中・高校生ががんばりすぎて燃え尽きる前の「SOS発信」教育 #今つらいあなたへ
久保田さんはSOS発信プロジェクトの中で、表面上は明るく見える子も実は深い悩みを抱えていることを知り、苦しい思いをしているのは自分だけではないことに気づいた。「自分も友だちから相談を受けることがあったら、話を親身になって聞こうと思うようになった」と話す。 藤田さんは次のように語る。 「友だちも同じように悩んでいることや、少し勇気を出して声を掛けたら、意外と友だちは答えてくれることを知った体験は、人間関係を結ぶ“橋”になるんですね。交流をもってみようかな、という。久保田くんは勉強を教えてもらうことがきっかけで人に関わることの面白さを体験し、積極的になれたのだと思います」
「悩みと自分を切り離す」
出嶋さんと久保田さんは、授業を受けた翌年の中学3年のとき、「SOS発信プロジェクト」実行委員6人のメンバーの一員になった。岡田さんの資料をもとに、実行委員で内容をさらに改良して、一つ下の学年に伝えた。SOS発信教育プログラムは全国でいくつか行われているが、同世代が自身の体験を語るのは珍しい。プログラムを受けた生徒が、後輩たちに、体験や技能を順繰りに伝えていくのもユニークだ。
久保田さんは今年4月に高校に進学したが、起立性調節障害の症状は一進一退で、次第に通学が厳しくなってきた。全日制に通うのは無理かもしれないと思ったとき、母親から「いま、しんどいやろ?」と聞かれた。かつてならば「いや大丈夫」などと反応したはずだが、素直に「まあ、しんどいよ」と言えた。結果、通信制に変更し、精神的に落ち着いた日常を取り戻している。 出嶋さんと久保田さんの話からわかることは、「SOS発信プロジェクト」とは悩みを友だちなどに打ち明けるという狭い意味のものではないということだ。藤田さんも、悩みを無防備にさらけ出すことを推奨しているわけではない。 「その人らしさ、安心感が一番大切です。ただし抱え込みすぎず、自分らしくスッキリできる方法を探しておく。それもSOS発信の大切な要素です」 藤田さんはボルダリングというスポーツを例に出す。壁をホールドという突起につかまりながら登っていく。人によってつかみやすいホールド、登りやすいルートは違う。SOS発信にとってのホールドは、ストレス状態から解き放ち、自分らしさを取り戻すためのものである。 「プロジェクトの中で語られたストレス対処スキルとして、スイーツを食べる、体を動かす、寝る、音楽を聴く、友だちとひたすらしゃべる、ペットに悩みを話す、人に見られないように書いて吐き出すなどたくさんの意見がありました。正解はない。悩みと自分を切り離す。自分なりの“ホールド”をできるだけ多く見つけることで、自分らしさを認め、いとおしく思ってほしい」