【獣医学博士に聞いた!】世界一わかりやすい「ペットの漢方薬」基礎の基礎
取材・文/柿川鮎子 ペットの東洋医学について、世界一わかりやすく解説している、むつあい動物病院院長・獣医学博士・国際中医師の金井修一郎先生。今回は具体的にペットの漢方薬について、基礎の基礎を教えてもらおう。先生、今回もよろしくお願いします! 写真はこちらから→【獣医学博士に聞いた!】世界一わかりやすい「ペットの漢方薬」基礎の基礎
漢方薬の基礎知識、概論
――東洋医学では漢方薬を使って病気の治療を行ないますが、最初に漢方薬とは何か。西洋薬との違いについて教えてください。様々な慢性病、腰痛、婦人科の不調などに漢方を用いることで、体質が改善されて、身体への負担が少なく穏やかな治療ができると言われています。ペットの場合、どんな治療で漢方が威力を発揮できるのでしょう? ◆漢方薬と西洋薬について 金井先生 最初に「漢方薬とは何か?」ですが、何種類かの生薬(植物、鉱物、動物など)を組み合わせた薬を漢方薬と言います。 西洋薬は単一成分のものが多く、胃酸を抑える、気管支を広げる、細菌を抑える(抗生物質)、炎症を抑える(消炎剤)など使用目的が決まっていて、特定の細胞や臓器に直接働きかけて作用します。 一方で漢方薬は複数の成分が含まれているため、身体の様々な場所に作用します。 漢方薬はすぐに効かないが副作用が少ない、西洋薬はすぐに効くが副作用の心配があるというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。漢方薬でも比較的効果の早いもの(足がつったときの芍薬甘草湯、胸焼けのときの六君子湯など)もあり、逆に状態や組み合わせによっては副作用が出ることもあります。 漢方薬、西洋薬のどちらにもメリット・デメリットがありますので、そのペットがおかれている状況を把握して、適切に処方されることが理想的です。特に漢方薬の処方には、以前お話した弁証論治(東洋医学的な診断)が必要です。また、投薬中はどちらの薬も定期的な健康状態の確認が必要です。 (金井先生の注:複数の薬を使用する場合には、薬の相互作用への注意が必要です。西洋薬と漢方薬、漢方薬同士でも一緒に使わないほうがよい組み合わせがあります。ペットに複数の薬を使用する際は、専門知識を持った獣医師にご相談ください) ◆漢方薬と生薬について ――TVのCMで「〇〇生薬(しょうやく)入り」という言葉を聞きます。漢方薬と生薬には何か違いがあるのでしょうか? 金井先生 “生薬”とは、経験的に薬としての効果がわかっている植物の葉、茎、根や鉱物、動物などを加工して有効成分を抽出したものです。その何種類かの“生薬”を組み合わせたものが“漢方薬”です。漢方薬の元となる生薬について少し説明してみましょう。 生薬の作用は様々な観点(薬性、薬味、効能など)から分類されます。最初に薬性について表で見てみましょう。 薬性(五性):身体を冷やすか温めるか(寒、涼、平、温、熱) 表では左から右へ、身体を強く冷やす寒性ものから強く温める熱性の生薬まで5段階に分類しています。寒性の石膏(寒性生薬)を食べるなんてと、驚かれるかもしれません。でも、その冷たくて重い感じは身体を冷やしそう、逆に乾姜(熱性生薬)はショウガを蒸して乾燥させたものですが、食べたら温まりそうではありませんか? この五性の分類は、東洋医学的診療の基本である“熱ければ冷やす・冷たければ温める”を考える際に参考になります。次に薬味について表で見てみましょう。 薬味(五味):味による分類(酸、苦、甘、辛、鹹) 生薬の味が身体に及ぼす作用は、表2のように5種類に分類されます。酸っぱいものをなめるとキュッと口が引き締まる、辛いものを食べると汗が出るなどの経験から、イメージできる部分があるのではないでしょうか。 水様便や鼻水に“酸”、熱や咳に“苦”、消化・栄養不良に“甘”、肩こりや冷えに“辛”、シコリや便秘に“鹹(かん)”の味を持つ生薬がそれぞれ有効であった、という経験的な知見が治療に役立ちます。最後に効能について表を参考に解説してみましょう。 効能(三品):作用の強さ・速さなどによる分類 生薬の効能は表3のように、上品(じょうほん)、中品(ちゅうほん)、下品(げほん)(または上薬、中薬、下薬)の3段階に分類されます。 「上品」は生命を養う薬で長期間服用できるもの、 「中品」は健康を保つための薬で病気の治療にも用いるもの、 「下品」は病気の治療に用いるもので、効果は強いが長期間の服用はできないもの、 という3つの分け方をします。西洋薬の多くは「下品」に近いイメージです。副作用が少ないと思われがちな漢方薬でも、特に下品が含まれるものでは必要最小限の投与を心がけます。