南部虎弾と妻の最後の日々ーーザ・ノンフィクションだけが見た妻の愛と悲しみ #病とともに #ザ・ノンフィクション #ydocs
「喪服禁止」の葬儀・告別式
「もう南部について何も語りたくない」 南部が亡くなった後、由紀さんからそう申し出があった。由紀さんにとって、南部の死はあまりにも突然だった。心の整理がつかず、その死を受け入れられない状態が続いていたようだった。 私は由紀さんの申し出に同意した。 「電撃ネットワークのステージはあえて見ない」と由紀さんは決めていた。「男の仕事に口出すもんじゃない」と南部から厳しく言われてきたのだろう。これまでテレビ取材を頑なに拒んできたのも、それが理由かもしれない。 私といえば、南部虎弾がいなくなった電撃ネットワークがこれからどうなるのかが気懸かりで、取材を続けていた。
しかし、1月28、29日に東京都内の斎場で営まれた通夜・葬儀・告別式では、由紀さんは努めて明るく振る舞っているように見えた。 全身を南部虎弾の衣装で覆い、訪れる弔問客らを笑顔で迎え入れ、南部の衣装を着せて一緒に記念撮影を行っていた。 それは自らが南部虎弾になりきることで、自分の感情をどこか遠くに押しやろうとしていたのかもしれない。 葬儀の参列者に「喪服禁止」「できるだけ派手な衣装でお越しください」というドレスコードを出したのも由紀さんのアイデア。仮装した弔問客であふれた斎場は、さながらハロウィーンパーティーのようだった。 さすがにテーマ曲にあわせ全員で踊ったことが問題になり、後日、斎場からは出入り禁止が言い渡されたそうだ。
この頃、私たちの間でちょっとした話題になったのが、南部から届く謎のメッセージだ。 葬儀のあと、私が南部に「安らかに眠ってください」とLINEで追悼メッセージを送ると「既読」が付き、「きょうは大変にお疲れさまでした」と返事があった。一瞬「エッ!」と思うのだが、すぐに、妻の由紀さんの仕業だと気づいた。 気が重い取材が続いていただけに、このメッセージで心が少し軽くなった。 由紀さんは南部のアカウントを使って弔問に来てくれた人、ひとりひとりに、こんな形で“お礼状”代わりにメッセージを送っていたようだ。当然、受け取った方は大騒ぎになるが、これも由紀さんが考えついた、明るく南部をあの世に送る妙案のひとつだったのかも知れない。