異国の店主と土地の味/ロシア料理店『アンナズキッチン』
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) 目黒駅のすぐそばに、こんなに可愛らしくて入りやすい雰囲気のロシア料理屋さんがあることをつい最近知りました! 店内はまだ新しいように見えますが、オープンしたばかりですか? おいしいもの研究所別館
ルシコヴ・ヴラディスラヴ(以下、略称でヴラッド) オープンは昨年の7月です。自分のお店を持つのは、高校生の頃からの夢だったんです。ロシア人は、知り合いが家に遊びにくることに対してとてもウェルカムで、お手製の料理でもてなすことが好きな人が多いのですが、僕も自分が作った料理を食べて喜んでもらえるのが何より嬉しくって。
土井 飲食のお仕事はまさに天職ですね。夢を抱いていた高校生の頃は、ロシアと日本、どちらに住んでいたんですか?
ヴラッド 僕は10歳から日本に住んでいるんです。でも、高校生までは日本のロシア学校に通っていたので日本語は少し話せる程度だったんですよ。それが、2011年の東日本大震災の時にロシア学校が閉鎖してしまって、ロシアに帰る選択肢もあったんですが、日本の高校に転校することにしたんです。日本語の読み書きもできないのに(笑)。今思うと、チャレンジスピリットがすごく大きかったですね。
土井 異国に住むこと自体もそうですが、その先のコミュニティに飛び込むにはさらなる勇気がいりますよね! でも、チャレンジした分だけ大きく成長していくのだろうと思います。
ヴラッド 当時の自分のおかげで日本語が身についたからこそ、日本の大学に進学できたし、ロシア語と日本語のバイリンガルっていう珍しい強みを生かして日本の会社に就職してロシア駐在員を任せてもらいました。でも、やっぱり飲食の道を諦められなくて、1年間で会社を辞めて、吉祥寺にあるロシア・ジョージア料理店『カフェロシア』に勤めたんです。そこで接客や経理のやり方を教わって、2年後に独立して『アンナズキッチン』をスタート、というのが10代から今までの経緯ですね。