悲願の本番 公演延期シアターキューブリック葛藤の1年
今月20日都内で、ある舞台の幕が上がる。コロナ禍で延期になっていたシアターキューブリック『幸せな孤独な薔薇』(浅草九劇)だ。昨年、同劇団の20周年記念公演として上演予定だった。もともとは関西の劇団「惑星ピスタチオ」の看板女優だった平和堂ミラノこと田嶋ミラノにより2000年に初演された作品で、演劇界では名作として語り継がれる。今回演出をつとめる緑川憲仁も同作への深い思い入れを抱く。ライブエンターテインメントが深刻なダメージを受けるなか、この1年をどう過ごし上演までたどり着いたのか。大事なのは、一人の人間としてエンターテインメントを求める気持ちだった。緑川と主演の眞実を稽古場に訪ねた。 【写真特集】コロナ禍、マスク姿で稽古に集中する役者たち
本番迎えることのない通し稽古から1年
約束の時間に稽古場に到着すると、建物の入口付近から稽古室にかけてところどころコロナへの注意喚起の張り紙や消毒液が置かれている。関係者は数日前抗原検査を受け、全員陰性が確認されたという。室内に入ると稽古の真っ只中、熱量を感じる演技が続くがキャストもスタッフもみなマスク姿で、出番以外の演者は距離を保ち待機する。休憩に入れば直ちに窓を開け換気を実施する。そんな環境下でのインタビューとなった。 「1年前、本番8日前に延期が決まり、みんなに伝えたうえで最後に通し稽古をしました。再開したとき活かすために。本番を迎えることのない通し稽古は生まれて初めてでしたが、そんなことを言い渡されて稽古に臨んだ俳優の気持ちはどうだったんだろうと」
緑川は淡々とした口調で振り返り、主演のルカ役をつとめる眞実を見やる。当時の辛い気持ちを思い出したのか、ややうつむき加減に語り始める眞実。 「コロナという正体がわからないものに対する不安もあり、何が正しいかわからない状況で、やっぱり悔しさだけが募っていきました。延期が決まった翌日からはしばらく魂が抜けたように動けなくなって、ただぼやーっとして、すごく悲しいし悔しいし」 だが、ある瞬間から気持ちを切り替えたのだという。 「でも、だからこそ延期しても絶対やるんだと。前向きに1年という時間をとらえ、もっと研鑽を積んでやるぞと、気持ちに火がついたんです。自粛で家にいなくてはいけなかったぶん家族とお話を楽しんだりもできました。いままでただ一生懸命やっていたけど気づけていなかったことに気づけて、1年後のここに来られたんです。悔しかったですが、より熱い気持ちに切り替えてチャンスと思うしかないんですよね」