なぜ五輪で不完全燃焼だった川崎Fの三笘薫は英プレミアのブライトン移籍を決断したのか…「プロとしての向上心とチャレンジ精神」
決勝トーナメントに入っても状態は上向かず、U-24スペイン代表との準決勝では再びベンチから外れた。懸命に戦うチームメイトたちの力になれないまま、延長戦の末に0-1で屈し、金メダルへの夢を絶たれた瞬間を三笘はスタンドで見届けた。 期待された攻撃力が発揮されたのは、メキシコと再び顔を合わせた6日の3位決定戦だった。3点のビハインドを背負った後半17分から、DF中山雄太(ズヴォレ)に代わって投入された三笘は、同33分に一矢を報いるゴールを決めた。 右サイドからペナルティーエリア内へ侵入してきた、MF久保建英(レアル・マドリード)からパスを受けた三笘は、深い切り返しから相手選手を一瞬にして置き去りにする。そのまま縦へドリブルを開始し、左ゴールポスト近くへ迫っていった。 最後はオーバーエイジで参戦しているメキシコのレジェンドで、ワールドカップ代表に4度選出されている36歳の守護神、ギジェルモ・オチョアとの1対1を迎える。飛び出してきたオチョアの肩口を、左足による一撃で冷静かつ正確に射抜いた。 ゴール以外にもJリーグで無双を誇った、緩急を駆使したドリブルがメキシコの守備網を切り裂くシーンが何度もあった。もっと早く万全の状態に戻っていたら――ファン・サポーターの無念の思いを、誰よりも三笘自身が強く抱いていたはずだ。 だからこそ、東京五輪の最後に見せた意地の一撃を、ヨーロッパの地で幕を開ける新たな戦いへとつなげる。労働許可証の関係で今シーズンは登録できない状況を承知の上で三笘を獲得した、ブライトンのダン・アシュワーズ・テクニカルディレクターの言葉を聞けば、稀代のドリブラーに注がれる期待の大きさが伝わってくる。 「三笘は以前から私たちが追跡してきた選手だ。彼がヨーロッパの環境に慣れるのを助ける意味も込めて、サンジロワーズへの貸し出しを決めた。ベルギーでプレーする彼を注意深く見守りながら、成長していく姿を楽しみにしている」 労働許可証を取得するには、サッカー選手では母国のFIFAランキングも含めて、厳格な条件が定められている。たとえば現在28位の日本が21位から30位までの間を維持していく場合、2年間のフル代表公式戦で60%以上の出場率をマークする必要がある。 現時点で三笘はフル代表での出場歴がない。だからこそ、4位で東京五輪を終えた直後に、オーバーエイジとして参戦して全6試合、600分間に先発フル出場したキャプテン、32歳のDF吉田麻也(サンプドリア)が残した言葉が重みを帯びてくる。 「完敗ですけど、胸を張って帰りたい。これで終わりじゃないし、サッカー人生はまだまだ続く。9月からはワールドカップのアジア最終予選が始まる。そこに一人でも多く食い込むために自分のチームに帰って、大変だけどポジションを奪って、僕自身も自分のパフォーマンスを示して、9月の戦いでまたみんなに会えることを楽しみにしています」