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一気にドラフトの目玉に!! 都市対抗のシンデレラボーイ・近本光司

横尾弘一野球ジャーナリスト
決勝でダメ押しのタイムリーを放ち、橋戸賞と首位打者賞に輝いた大阪ガスの近本光司。

 大阪ガスと三菱重工神戸・高砂の近畿勢対決となった第89回都市対抗野球大会決勝は、7回まで両軍スコアレスの息詰まる投手戦。8回裏一死二塁から峰下智弘の中前安打で大阪ガスが先制すると、さらに一、二塁と続いた好機で近本光司が中前安打でダメ押しの2点目を叩き出す。外野からの返球の間に二塁へ進んだ近本が一塁側ベンチに向かってガッツポーズすると、バックネット裏に陣取ったプロのスカウトから「あの憎めない笑顔もいいよなぁ」という声が上がる。

 例年以上に投高打低だった大会で、21打数11安打の.524という高打率でチームを初優勝に導き、首位打者賞に加えて最高殊勲選手賞にあたる橋戸賞も手にした近本は、まさにシンデレラボーイと呼ぶに相応しい活躍で、一躍ドラフトの目玉に躍り出た。

 兵庫県の淡路島出身で、社高では投手兼外野手。関西学院大では外野手に専念して2年秋からリーグ戦に出場した。ただ、高校では2年夏、3年夏と県ベスト8で甲子園に届かず、大学でも3年春にベストナインを獲得したものの、4年春に右肘を骨折。170cm・70kgと体格も並ゆえ、プロのスカウトが追いかけるような存在ではなかった。

 昨春に大阪ガスへ入社すると、俊足好打で目立つパフォーマンスを発揮。都市対抗近畿二次予選では2試合連続本塁打でパンチ力も見せたが、チームは予選で敗退する。それでも、三菱重工神戸・高砂に補強されて二番を任されると、優勝したNTT東日本との一回戦で3安打を放ち、「来年の成長が楽しみ」とスカウトがリストアップする結果を残した。

走塁技術の向上と左方向にも長打が出る打撃で大活躍

 そうして迎えた今季は、4月の岡山大会で優勝に貢献し、首位打者賞を獲得。都市対抗予選で第二代表を勝ち取ると、8月26日からインドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会の日本代表にも選出される。

 昨年10月のアジア野球選手権大会で優勝した社会人日本代表では、24名のうち11名がプロ入り。さらなる強化を目指して11月下旬から1か月間はアジア・ウインター・ベースボールに参戦したが、その38名に近本は選ばれていない。さらに、今年3月の選考合宿にも招集されなかったが、本格的にシーズンが始まった4月以降の活躍ぶりで、唯一の“リーチ一発”選出となった。

「これまで強化してきた選手から選ぶのが妥当だが、今シーズンの近本は攻守に走塁と別格の実績を残している。文句なしで選出しただけに、都市対抗でも活躍してくれれば……」

 日本代表で野手部門を担当する若林重喜コーチの言葉を裏づけるように、近本は攻守に躍動。大会新記録の13盗塁をマークしたチームにあって4盗塁を決め、JR東日本との準決勝では決勝のソロ本塁打、決勝でのダメ押しタイムリーと、大舞台での勝負強さも存分に見せつけた。

「社会人の野手は昨年に獲り尽くした感があり、今年は好素材が揃う投手に注目してきた。しかし、これだけ質の高いプレーを見せられたら、どの球団も獲得したいでしょう。ポイントは『速い』から『上手い』に進化した走塁技術、フォロースルーが大きくなったことで左方向にもロングヒットを打てる打撃。若い頃の青木宣親(現・東京ヤクルト)を思い出させます」

 ベテランのスカウトがそう語るように、「いい選手」から「凄い選手」に脱皮した近本には、オールプロの韓国、8名のプロ選手を加えたチャイニーズ・タイペイと金メダルを争う社会人日本代表を牽引し、アジア競技大会でも暴れてもらいたい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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