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清春 ひと癖もふた癖もある初のカバー集で見せる、カバーという表現のその先にある“輝き”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

古今東西、様々なカバーアルバムが存在するが、いいカバーアルバムというのは、どういうもののことを指すのか――改めてそう考えるきっかけをさせてくれたのが、25周年を迎えた清春が9月4日にリリースした、初のカバーアルバム『Covers』だ。

削ぎ落したサウンドと、清春の圧倒的なオリジナリティを放つ歌が、原曲に強烈な光を当て、同時に濃い影も作り出し、独特の世界に引き込む

『Covers』(9月4日発売/通常盤)
『Covers』(9月4日発売/通常盤)

「傘がない」(井上陽水)、「悲しみジョニー」(UA)、「月」(桑田佳祐)、「SAKURA」(いきものがかり)、「想いでまくら」(小坂明子)、「アザミ嬢のララバイ」(中島みゆき)、「MOON」(REBECCA)、「接吻」(オリジナル・ラブ)、「やさしいキスをして」(DREAMS COME TRUE)、「恋」(松山千春)、「木蘭の涙」(スターダスト☆レビュー)と、1970年代から2000年代まで、幅広い時代のポップスの名曲をカバー。その意外な組み合わせにトリッキーさを感じるものもあるが、どの曲も、驚くほど削ぎ落した、でも芳醇なサウンドに乗せ、色気、情念を纏った歌がどこまでも生々しい。サウンドをシンプルにすることで、原曲の本質、メロディの強さがより浮かび上がってくるが、そこに清春の歌が強烈な光を当て、同時に濃い影を作り出し、原曲の良さを改めて際立たせている。

初のカバーアルバムだが、清春はこれまで、敬愛する沢田研二「背中まで45分」を始め、中森明菜「TATOO」、さだまさし「防人の詩」、そして洋楽も含め、多くの曲をカバーし、ライヴでも歌ってきた。

どの曲もそのアーティスト独特の“節”が、オリジナルティとして輝きを放ち、何十年も聴き継がれ、歌い継がれてきた。圧倒的なカリスマ性で、性別問わず支持を得ている清春も、唯一無二の“清春節”で色濃い世界観を築き上げてきた。原曲とそれを歌うアーティストへのリスペクトは最大限に払い、その上で節と節とがぶつかり、感じたことがない、聴いたことがないカバーが生まれた。清春の歌になっている、という表現の“その先”の世界に連れて行ってくれる。

どこか切羽詰まったようなボーカルが、歌詞への独特の解釈、視線を感じさせてくれる「傘がない」、生々しいボーカルがより色気を感じさせてくれる「悲しみジョニー」、桑田佳祐のそれとはまた違う切なさを感じさせてくれる「月」など、狂おしいまでの歌で、その世界に引き込み、浸らせてくれる。いきものがかり「SAKURA」が、一番“遠い”と思っていた楽曲だが、ポップスの佇まいを残しながらも、胸を打つロックバラードとして成立している。「想い出まくら」は、短いながら女性の情念が漂う歌詞を、薫り立つような歌で届けてくれ、「接吻」はクールさの中に、燃え上がるような想いを、強く感じさせてくれる。「SAKUARA」同様、清春の世界とは“遠い”と思っていた、どこまでメロディックな「木蘭の涙」は、ポップネスをしっかり残しながらも、全く違う肌触りのバラードに生まれ変わっている。

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聴き終わった後、これが25年というキャリアの成せる業かと、大きく深いため息が出てきて、またすぐに1曲目から聴きたくなる。それは名曲達の聴きなれたメロディと言葉が、その残像を残しながらも、清春というシンガー、人間を通すことによって、こんなにも新しい空気を纏って、耳と心に飛び込んできて、違う感覚を植え付けてくれるから、もう一度“確かめにいきたい”と思わせてくれるからだ。

ひと筋縄ではいかないカバー、ひと癖もふた癖もあるカバー――このアルバムを形容する時に、そんな言葉が飛び交うと思うが、こんなカバーアルバム、聴いたことがない。“なんかいい”――。

清春 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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