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【速報・解説】ソン・フンミン、アジア大会に出場へ…その決断にある切迫した状況とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

フランスの優勝で幕を閉じたロシア・ワールドカップの余韻が冷めぬ中、韓国のサッカーファンたちの関心は8月18日からインドシネアのジャカルタで行なわれるアジア大会に注がれている。

今やピッチの内外で話題のエースに

本日7月16日にはアジア大会に挑む20名の選手が、つい先ほど発表になった。KFA(韓国サッカー協会)に記者登録されているとメディアサービスとしてプレスリリースを受け取ることができるのだが、つい先ほど公式リリースを手にした次第だ。

●アジア大会韓国代表メンバー(7月16日発表)

GK/チョ・ヒョヌ(大邱FC)、ソン・ボムグン(全北)

DF/キム・ジンヤ(仁川)、チョン・テウク(済州)、キム・ミンジェ(全北)、ファン・ヒョンス(ソウル)、チョ・ユミン(水原FC)、キム・ムンファン(釜山)、イ・シヨン(城南)

MF/イ・ゴヌン(蔚山)、イ・スンモ(光州)、チャン・ユンホ(全北)、ファン・インボム(牙山)、キム・ジョンミン(FCリーフェリング/オーストリア)、イ・ジンヒョン(浦項)

FW/ソン・フンミン(トッテナム/イングランド)、ナ・サンホ(光州)、ファン・ウィジョ(ガンバ大阪/日本)、ファン・ヒチャン(ザルツブルグ/オーストリア)、イ・スンウ(ヴェローナ/イタリア)

アジア大会の男子サッカー競技は23歳以下の選手で行なわれるが、オーバーエイジとして3名を加えることができる。

そのオーバーエイジとして先のロシア・ワールドカップでも活躍した奇抜ヘアGKチョ・ヒョヌ、ガンバ大阪のファン・ウィジョなど選ばれたが、最大の注目は韓国代表のエース、ソン・フンミンが選ばれたことだろう。

イングランド・プレミアリーグのトッテナムに所属し、前回ブラジル大会に続き、ロシア・ワールドカップでも2大会連続ゴールを決めて、名実ともに韓国代表のエースに君臨するソン・フンミンは最近、その人気から「ソン・フンミンの過去の熱愛説を探る」(『トップスターニュース』7月13日付け)などの特集記事も組まれるなど、ピッチ外でも話題を集めるが、ふたたび本業のサッカーで大きな関心を集めることになった。

(参考記事:【画像】ソン・フンミンの「恋人」は? 韓国代表の「美女パートナー」たちがかわいすぎる!!)

アジア大会・金メダルで得られる「兵役免除」とは?

それにしてもなぜ、ソン・フンミンはアジア大会に出場するのか。

アジア大会はFIFAの主管大会ではないし、国際Aマッチとしてもカウントされない。しかも、8月11日からはプレミアリーグの新シーズンも開幕する。それでもそんな大事な時期に所属クラブを離れてジャカルタのピッチを踏むのは、彼の今後のサッカー人生を左右しかねない問題解決を急がねばならないからだ。

韓国では成人男子に約2年の兵役が義務づけられているが、ソン・フンミンはまだ兵役の務めを終えていない。

ただ、スポーツ選手の場合、オリンピックで金、銀、銅のいずれのメダルを獲得したり、アジア大会で金メダルを獲得すれば、4週間の軍事基礎訓練だけで済む「兵役免除」に授かれる。

過去には韓国人メジャーリーガー第一号のパク・チャンホが大事なオフシーズンを返上して野球韓国代表に合流し、1998年バンコク・アジア大会で金メダルを獲得して兵役免除の恩恵に授かっているが、ソン・フンミンもその特例を手にしたい。いや、今後もプレミアリーグで選手生活を送るためにも兵役免除の資格は取らなければならない。

韓国の現行の兵役法では「満28歳までに兵役を終えていなければない」となっており、それに従えば1992年7月生まれのソン・フンミン(チョ・ヒョヌ、ファン・ウィジョなども)には、あとがないのである。

(参考記事: 深層ルポ】知られざる韓国スポーツと兵役「兵役は選手として“死んだ時間”」と嘆くアスリートたち)

ソン・フンミンには3度のチャンスがあった!!

過去に兵役免除の獲得する機会がなかったわけではなかった。

例えば2012年ロンドン五輪。ホン・ミョンボが監督として率いた韓国代表は3位決定戦で日本を破って銅メダルに輝いている。

キ・ソンヨン、ク・ジャチョル、キム・ボギョンら当時23歳の選手や、現在は川崎フロンターレの守護神を務めるチョン・ソンリョンなどは、このときに兵役免除を獲得しているが、当時のソン・フンミンはドイツ・ブンデスリーガのハンブルガーSVで頭角を現していた頃で、五輪代表にはアジア予選すら招集されなかった。

2014年の仁川(インチョン)アジア大会ではソン・フンミン本人が出場を強く望み、チームを率いた故イ・グァンジョン監督や韓国サッカー協会も働きかけたが、当時所属していたレバークーゼンが参加を許可しなかった。

協会は「決勝トーナメントからでも招集できないか」と打診したが、レバークーゼンは首を縦には降らなかった。

仁川アジア大会で韓国は優勝し、かつてJリーグでプレーしたパク・チュホ、キム・ジンス、現在はFC東京に所属するチャン・ヒョンス、ヴィッセル神戸に所属するキム・スンギュなどが兵役免除の資格を手にしているが、今となってはこのときがもっとも好機だっただろう。

そして2年前のリオデジャネイロ五輪。オーバーエイジとして参加したソン・フンミンだが、韓国は準々決勝でホンジュラスに0-1で敗れてしまう。

試合直後、ソン・フンミンはピッチに泣き崩れ、コーチングスタッフに抱きかかえながら10分以上も号泣していた。その涙はただの悔し涙ではなかったことは想像に難なくなかった。

兵役のせいで海外挑戦を途中下車したケースもある

だからこそ今回のアジア大会に賭ける想いは強かったのだろう。

ロシア・ワールドカップ期間中に行動をともにした『スポーツ朝鮮』のヨーロッパ特派員でロンドンを拠点に取材を続けるイ・ゴン記者によると、ソン・フンミンはかなり以前からトッテナムにアジア大会出場の意志を示し、クラブ首脳陣にもその切実さを強く訴えていたという。

ただ、それも無理はない。今回のアジア大会で兵役免除の資格を手にできなければ、ソン・フンミンは本人やクラブが望んでも、ヨーロッパで選手生活を送れなくなってしまう恐れも出てくるのだ。

というのも、兵役を終えていなければ自由な海外渡航が難しくなり、現地での就学・就労にも制限が設けられる。

アメリカ男子ゴルフで活躍していたペ・サンムンはそれに違反して兵役法違反で告白され帰国を余余儀なくされているし、2008-2009年シーズンにイングランドのウェスト・プロムウィッチに所属したキム・ドゥヒョンは兵役問題もあってヨーロッパでの選手生活を続けることをあきらめ、韓国に戻った。兵役問題が足かせとなって海外での選手生活を中断せざるを得なかったケースが、韓国にはあるのだ。

少々古い話になるが、2002年釜山(プサン)アジア大会では当時、韓国代表のスーパースターだったイ・ドングッがアジア大会に出場。準決勝でイランに敗れ、ミックスゾーンで途方にくれた表情を見せたことが忘れらない。

イ・ドングッはその前シーズンまでドイツのブレーメンに籍を置いていたが、釜山アジア大会後に兵役のために尚武(国軍体育部隊)に籍を移している。彼にとっては2002年アジア大会は“最後のチャンス”だったのだろう。

そういう意味でも、ジャカルタ・アジア大会はソン・フンミンにとって“最後のチャンス”なのである。

もっとも、アジア大会で金メダルを獲得するのは簡単ではない。前回の仁川大会で韓国は金メダルを手にしたが、それは28年ぶりのこと。それを含めて韓国がアジア大会で優勝できたことは、4回しかないのだ。(1970年、1978年、1986年、2014年)

ましてソン・フンミンが今回の韓国アジア大会代表の面々たちと息を合わせるのは初めて。

ファン・ヒチャンやイ・スンウなどロシアで寝食をともにした選手もいるが、ソン・フンミンがチームを指揮するキム・ハクポン監督のもとでプレーするのは初めてだ。

韓国記者たちの間では個人主義の傾向が強いとされるソン・フンミンが、年の離れた後輩たちに溶け込み、リーダーシップを発揮できるかどうかという点では一抹の不安もあるだろう。

(参考記事:ソン・フンミンの「あり得ない行動の数々」を韓国記者が暴露。「俺はパスするために来たんじゃない」)

果たして、ソン・フンミンはアジア大会で輝くことができるだろうか。金メダルを手にできなければ、今後の選手生活はもちろん、人生設計にも多大な影響を及ぼす可能性があるだけに(それについては次の機会に詳しく紹介したい)、並々ならぬ覚悟でジャカルタ入りすることだけは間違いないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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