Yahoo!ニュース

自民党議員のマタハラ疑惑、雇用側に同情の声が多数。どこからがマタハラか、ボーダーを議論していこう

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
妊娠イメージ(写真:アフロ)

自民党の白須賀貴樹(しらすかたかき)衆院議員が、働き方改革関連法案を議論する党の厚生労働部会などの合同会議で、自身が運営する保育園で病児保育のため採用した看護師について「雇って1ケ月後には実は妊娠して産休に入ると(言ってきた)。人手不足で募集したのに、それは違うだろと言った瞬間に労基(労働基準監督署)に駆け込んだ」と発言した。

また、労基署が保育園側に非があると指摘してきた。それに対し「中小企業の実情と労基の指導の仕方がずれている。事情を踏まえるよう、労基に徹底的に指導してもらいたい」とも語った。

参考記事:「<自民党>白須賀議員がマタハラ発言か 自身運営の保育園で

この記事をめぐってTwitterなどのSNS上では、「マタハラだ!」「いや、女性側が悪い」の二極のコメントが多数上がっている。まずは詳細の情報が欲しいところ。たったこれだけの情報では、実態が不明確でマタハラかマタハラでないかの判断など付くはずがない

そこで、Yahoo!記事のコメントを見ながら「例えば、このような状況だったとしたら…」という仮定で、「どうすればいいか」という建設的な視点で、この問題について考えてみたいと思う。

●採用1ヶ月の妊娠はマナー違反?雇用側に同情の声が多数。

上記、Yahoo!記事のコメントを共感順に見てみよう。共感順では、雇用側への同情意見

が上位に多数ある。

【コメント】

雇って1ヶ月で妊娠→産休では雇った方からすれば「勘弁してくれよ」って気持ちになると思う。

【コメント】

妊婦に優しい職場であって欲しいが、さすがに入社1ヶ月で「妊娠しました」は、社会人としてはマナー違反だと思う。

【コメント】

妊娠はおめでたいことだけど、だからって何でも許される訳じゃないと思う。

自分は女性で子どももいるけど、これは雇用する側が気の毒だと思った。

【コメント】

全然マタハラじゃないと思う。

流石に就業1ヶ月後に産休の希望を出されたら、雇用主や職場の他の人たちにしたら、迷惑、無責任という感情が湧くのは当然の事だろう。

人材育成は、組織にとって将来的に必要だからやらざるを得ないだけで、出来たら即戦力な人材を求めるのが雇う側(使う側)の本音だと思う。

入ってすぐ長期休暇なんか取られたら、代理の人にまた同じ教育する事になり、組織にとったらダメージが大きい。

「妊婦に優しい職場であって欲しい」「妊娠はおめでたいことだけど…」という前置きがありつつも、採用1ヶ月での妊娠には厳しい意見が多い。

昨日(3月29日)には、以下のような記事が出ている。

参考記事:「保育士の「妊娠順番ルール」は約15%の保育園で存在

人手不足が問題の保育園で、しかも人手不足を補う目的で採用したのに、採用1年未満で産休に入られては、会社側は苦しいだろうなと私も思う。産休に入った看護師の代替要員を採用しなければならず、広告費等またもや採用コストがかかるだろう。しかも人手不足の保育園で、代替要員がすぐに見つかるかも分からない。

会社側が苦しいのは十分理解した上で、では入社半年ならいいのか、1年ならいいのか、という話になってくる。「妊娠順番ルール」ではないが、「入社1年は妊娠しないルール」が出来てしまうと、マタハラにベクトルが向き、女性たちの妊娠は制限され、少子化は加速していってしまう。

妊娠のタイミングは本人でもコントロール出来ないことがある。望んでもなかなか授かれなかったり、避妊していても妊娠したり。いつ妊娠するか予定が立てづらいものだし、あくまで女性たちの自由な意思に基づいて妊娠はするものであって、第三者が規制するものではないと思う。

●妊娠が分かっていたのに黙って入社するのはマナー違反?

【コメント】

これは、保育園の現場からすれば、かなりシャレにならない所業です。

現在法令で「保母さん1人での児童受け持ちは3人まで」となっているから、こんな突然長期の産休を取られたら保母さんのやり繰りがグダグダになるばかりか、代わりの保母を確保できなければ園の方が法令違反を問われかねません。

採用して半年後ならまだしも、採用して1ケ月後に突然産休を申請するという事は、逆算すれば採用時には既に妊娠からかなり日が経っていたという事になるのだから、そんな大事な事を園に黙っていたのはやはりマナー違反でしょう。

せめて採用時に妊娠の事を言っていれば、園としてももう少し対応の仕様があっただろうに。

【コメント】

妊娠がわかっていたのにそれを隠して採用されたのならば、それは契約違反とかにならないのかな?

【コメント】

面接の時に、確認事項で「妊娠しているか」と聞けるの?聞いたら「マタハラ」と言われるよね。

看護師が採用時にすでに妊娠していると分かっていたのでは、という憶測でコメントしているものもある。もし、本人が妊娠を分かっていたのなら、それを黙って入社することは、マナーに欠けるように私も思う。

もちろん、「妊娠しています」といえば、採用してもらえないからというのはあるだろう。けれど、いずれ会社側にも分かることであり、それを黙っていたというのは会社側や周囲の社員への配慮に欠けるため、厳しい目で見られることになる。たとえ入社できても、その後の環境を自身で厳しいものにしている。

採用してもらえる可能性が下がってしまったとしても、入社前に妊娠していることが分かっていたのなら、それはきちんと会社側に伝えるべきだと思う。なかには、それでも採用してくれる奇特な会社もあり、実際に知っている。

また、採用1ヶ月で産休に入ったと解釈してコメントしているものもある。1ヶ月で産休ということは、採用時点で妊娠8ヶ月ほどとなり、お腹もかなり大きいことから、それを隠して入社したとはさすがに考えにくい。この場合は、採用1ヶ月で妊娠したと報告しただけだろうと推測される。

●なんでもかんでもすぐに「マタハラ」というのは止めよう。ボーダーを議論する必要がある

【コメント】

普通に頑張ってくれている妊婦さんは応援しているけど、お妊婦様とメンタル様に配慮がすぎる昨今に感じる。

【コメント】

会社はボランティア団体では無いだけに、何でもかんでも「マタハラ」って、騒ぎ立てるのはどうなの?

【コメント】

今の社会では、休むのも権利。

でも、産休中に手当金を貰って、会社に復帰するタイミングでまた産休に入って、それ繰り返して結局辞める人がいるのも事実。

会社としては、本当に働く気がある人を雇いたい。

【コメント】

実際、経営者になると分かるけど、とんでもない奴いるよ。

それこそ「産休詐欺」「育休詐欺」みたいな奴がさ。

<自分の知る一番ひどい例>

就職して、すぐ妊娠発覚(場合によっては「自分でも分かっていただろ」くらい)。周囲も妊婦だし、あまり激しい業務はダメって事で気を使うので、「新人扱い」のまま産休。もちろんそのまま育休ほぼフル消化。

そろそろ育休明けて働いてくれるかなと思いきや、その時点で再度妊娠。今度もきつい業務からは外され、ブランクから回復する暇もなく、また産休、育休ほぼフルに取って、一応在籍3年だけど、まともに働いたのは1年弱って状況で、「2人の子育ては大変なので退職します」

細かい部分、ちょっと大げさに書いたけど、大企業ならまだマシだけど、中小企業だと、かなり痛いよ。

「お妊婦様」「モンスター社員」「産休育休詐欺」などのコメントや、なかには会社側からの嘆きのような声もある。

採用1ヶ月で妊娠したときの、女性側の態度やコミュニケーションが重要となってくる。妊娠の報告の仕方やその姿勢に、通常よりも気配りが必要になってくるだろう。「権利ですから当然ですよね。別に採用1ヶ月でも問題ないですよね!」というお妊婦様の態度だったとしたら、さすがに会社側もカチンと来るだろう。

本日(3月30日)に以下のような記事を配信した。

企業のお妊婦様&モンスターワーママ対策は、産休育休復帰者を増やし複数ルートを作ること、専門家に聞いた

労働基準監督署や労働局均等部など外部の第三者機関への相談も、段階を踏むべきに思う。

「それは違うだろと言った瞬間に労基(労働基準監督署)に駆け込んだ」という箇所について、情報が少な過ぎるが、「それは違うだろ。産休は取らせない。辞めてもらう」とまで発言したのなら、違法の可能性が高くなり、外部機関への相談も必要になってくることだろう。

けれど、「それは違うだろ」とため息交じりにこぼしてしまっただけで、いきなり事業者名を暴露して外部に相談するのは、過剰反応とも思える。

実際に「労基署が、非があるように指摘」と白須賀議員の発言がある。「それは違うだろ」と一言いっただけで、指摘されたとしたら、文句も言いたくなるだろう。

外部機関に相談すれば、雇用側は外部機関にも対応しなければならなくなり、さらに負担が増えてしまう。これから制度を使わせてもらう相手に対し、負荷ばかりかけて休業に入っていくのはいかがなものか。復帰したあと、制度が利用できなくなった際に、自分の居場所がなくなり困るのは本人だ。

外部機関は匿名で事業者名を伝えなくても、相談に乗ってくれる。最初は情報収集のための機関として使い、雇用側とコミュニケーションを重ねたとしても、産休を取らせてもらえなかったら、紛争解決援助や指導に入ってもらうよう段階を踏んで利用すべきに思う。

制度を利用する上でも、今後同じ職場で働き続ける上でも、賢い立ち回りを心がけた方が自身のためにもなる。

●雇用者と労働者、双方の実態に精通する専門家を第三者機関に

「中小企業の実情と労基の指導の仕方がずれている。事情を踏まえるよう、労基に徹底的に指導してもらいたい」という白須賀議員の発言ついて。

労基署や労働局は、人手や予算が不足した厳しい状態で回しているのは理解している。けれど、雇用者と労働者の一方の意見だけで対応された、ルールや法律だけで発言している、との声もある。理想としては、法律の知識はもちろん、雇用者と労働者、双方の実態に精通する専門家を第三者機関に入れる必要があるように思う。

産休育休制度の利用のためには、代替要員や周囲のフォローする社員の問題など、実際にどう運営していくかというアドバイスも雇用側には必要だ。また、第三者の専門家からの言葉の方が、お妊婦様にも耳に入るかもしれない。

「マタハラ」は制度の利用が付いてくるので、非常に複雑で難しい問題だ。様々な事例を共有し、どこからどこまでがマタハラなのか、きちんとボーダーを議論していく必要が今後あるだろう。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

小酒部さやかの最近の記事