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取引先に妊娠を告げた途端、仕事が激減。マタハラから守られていないフリーランスや女性経営者の苦しい実態

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
取材時に筆者撮影

働き方の多様化にともなって、フリーランスで働く人が増えている。その数は国内で推計1100万人余りとも言われる。一方で、フリーランスや経営者の多くは、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。また、国民健康保険への加入であれば、産前産後の休業制度も手当金も社会保険料の免除もなく、母体保護の観点からも全く守られていない。

産休もろくになく、すぐに働かなくてはならないのに、預け先を探すのに苦労する。会社員同様かそれ以上の収入や労働時間でも、フリーランスや経営者だと認可保育園の申請ポイントが低い自治体もある。また、昨年施行されたマタハラ防止からも雇用関係にないため、守られていない。妊娠を告げた途端に取引先から仕事の契約が切られたとしても、泣き寝入りせざるを得ない。

「少子化」や「働き方の多様化」が議論されるなら、今までマイノリティと黙殺されてきたこのような人たちにも目を向けて欲しい。時間の融通が利くフリーランスが、妊娠・出産後も働き続けられるインフラが整わなくては、「働き方の多様化」が進むはずがない。

今回は、非正規とフリーランスをかけ持つ女性に話を聞いた。彼女は非正規社員としてはマタハラに遭い、フリーランスとしても妊娠を告げた途端、仕事が激減したという経験を持つ。

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イメージ写真/アフロ
イメージ写真/アフロ

●マタハラに遭いフリーランスに転向、仕事をしたくても預け先に苦労

竹田さん(仮名/現在37歳)は第一子を妊娠したとき、専門学校の講師として契約社員で働いていた。職場に妊娠を伝えたところ、同僚から「あなたはもう辞めることになっていて、代わりの人を雇った」と聞かされた。竹田さん自身に相談や打診は一度もないまま、いきなり職員朝礼で校長に退職の挨拶を促されたという。職員全員の前で「辞めるつもりはない」と言いたかったが、あまりの驚きで何も言えなかった。妊娠したら辞めることが当然の流れで、職場の誰も竹田さんとは目を合わせなくなったという。この時は会社の健康保険と雇用保険に加入していたので、産休・育休制度が利用できたはずなのに、使えないまま自主退職を強いられた。2012年8月頃のことだった。

2012年11月、第一子となる男児を無事に出産した。収入のない生活が続いたので、2014年5月にフリーランスとしての仕事をスタートさせた。教材作成の仕事で出版社と契約し、仕事を請け負った。仕事をするためには子どもの預け先を探さないとならない。2つの保育園の一時保育、ファミリーサポート、シティセンタークリニックと4つの施設をかけ持ち、週4日の保育を確保するようにした。

一時保育の予約にはとても苦労したという。例えば2月分の予約は1月の決められた日に預ける保育園に直接電話をする。この予約のための電話がなかなか繋がらない。やっと繋がっても、早い者勝ちのため、すでにいっぱいだったりする。一時保育に選考基準はなく、主婦が習い事のために預けたいと思っても預けられる。仕事でなくても構わないのだ。竹田さんの利用していた保育園の料金は300円/1時間とベビーシッターより手頃なことから、予約は常にいっぱいだった。

子どもが預けられないときは、子どもを横に寝かせながら仕事をしていた。授乳しながら仕事するのは当たり前で、仕事が終わっていない時は夜泣きに対応しながら、仕事をしていた。この頃の記憶は、自分がいつ寝ていたのか不明だという。

【竹田さんの経緯】

・横浜市青葉区に在住

・2012年8月 専門学校講師(契約社員)として勤務するもマタハラに遭い退職

・2012年11月 第一子となる男児を出産

・2014年5月 個人事業主(フリーランス)の届出を提出

・フリーランスの傍ら、私立高校講師(契約社員)として週3日勤務を開始

・2015年3月 第二子となる女児を出産

・2017年3月 東京都西部に引っ越し 

(竹田さんへの取材を元に筆者作成)

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●またもやマタハラ?! 妊娠を告げた途端フリーランスの仕事がなくなった

その後フリーランスで仕事をしながら、週3日私立高校に講師として契約社員で勤務することになった。週3日勤務が終わった後やそれ以外の日にフリーランスの仕事をしていた。それぞれから半々くらいの割合で収入を得ていたという。

この頃、第一子の長男は私立幼稚園のプレスクール(2歳児クラス)に通わせていた。認可保育園に入れたかったが、フリーランスで在宅勤務が続いたためランクが下がり、入園させることは出来なかった。やっと1つの施設に預けることができるのでホッとしたが、私立幼稚園は入園金30万円や月の利用料5~6万円、制服代などがかかり、出費が多かったのは痛手だったという。

私立高校に1年ほど勤めた後、第二子の妊娠が分かった。ここでまたしてもマタハラ?と思える出来事に遭ってしまう。フリーランスで契約していた出版社から、妊娠が分かった途端に仕事をなくされてしまったのだ。万が一、妊娠中に何かがあって納期が遅れたら問題なのは分かるが、あまりにあからさまだったという。

その後はまた通常どおり仕事を発注してもらえ、それは現在に至るまで継続している。まるで何事もなかったかのようだ、と竹田さんはいう。

昨年1月から施行されたマタハラ防止は、「雇用主が従業員に対して」行なう措置となっている。雇用関係にないため、これをマタハラというか、(広義の意味ではマタハラと言えると私は思うが。)マタハラだと言ったところで解決できるのか、定かではない。声高にマタハラだ!と叫べば、妊娠適齢期の女性には仕事を発注しないと取引先がなってしまうだろう。とても難しい問題だが、モラルが醸成してフリーランスや経営者の女性が妊娠しても、あからさまに契約していた仕事をなくすということは、なくなってくれたらと思う。

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●非正規講師は産休さえ取らせてもらえない

契約社員として勤務していた私立高校は、雇用保険に加入していなかったので育休制度は利用できなかった。けれど、勤務先の健康保険には加入していたので、産休制度は利用できるはずだった。ところが、この高校でも産休を利用させてもらえず、退職することになった。第一子の際に勤めていた専門学校も同様だが、制度を利用せずに辞めるというのが当然のこととなっていた。こちらの高校は、そもそも女性教師が少ない高校で、わずかにいる女性教師は年齢が上の方々ばかり。産休育休取得者は誰一人としていなかった。

第一子と同様、無事出産できた第二子もフリーランスとして保育園に申請することになり、自宅勤務のためランクが低く、またしても認可保育園には入れなかった。第二子は無認可の小規模保育園に入れることになった。

出産後、もとの私立高校から非常勤講師として声がかかり、現在も同じ高校に非正規として勤務しながらフリーランスの仕事も継続している。高校も出版社も妊娠・出産期間は仕事を外し、リスクがなくなればまた元通り何事もなかったかのように仕事をさせている。いいとこ取りでずるいが、これが相手側の本音なのだろう。フリーランスへの不利な条件の押しつけを取り締まろうとする動きも現れつつある。以下参考記事。

参考記事:

「フリーランス 独禁法で保護 企業側取り締まりも」

●収入は安定しないのに保育料の出費はかさむ、負のスパイラル

昨年3月、竹田さんは横浜市から東京都西部に引っ越した。横浜市で保育するのは厳しいと感じたのと、引っ越した場所は希望した保育園に入れると区役所から情報を得たからだった。病児保育の受け皿、医療費の点で東京都の方がいいと思った。現在、長男は4歳、長女は2歳で、兄弟共に同じ認可保育園に入れているという。

非正規やフリーランスという働き方で収入が安定しないにもかかわらず、認可保育園に入れず高い保育料を支払うのはまさに負のスパイラルで、安定した収入の会社員との格差は広まるばかりだ、と竹田さんは当時を振り返っていう。当時、竹田さんはベビーシッターも利用したそうだが、収入面と照らし合わせ全てが実費になると二の足を踏んだという。それでも、背に腹はかえられないため利用したとのこと。

東京都が待機児童を持つ保護者に向けて、ベビーシッター代を最大9割補助する制度を2018年度に新設する方針を明らかにした。働き続けたい女性が働き続けられるよう、この方針が全国展開して行ってくれたらと願う。

参考記事:

「ベビーシッター代補助へ 都、待機児童対策 18年度、最大9割」

~署名キャンペーン ご賛同のお願い~

【雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言をします】

フリーランスや女性経営者など、雇用関係にない女性でも、会社員と同等の労働時間であれば、すべて女性が妊娠・出産・子育てしながら働き続けられるよう、法改正を政府に求めたいと思います。

要望内容は以下です。

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法改正をして雇用関係によらない働き方に従事する女性も出産・子育てと仕事を両立できるよう整備してください!

◆被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

◆出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

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※「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」とは有志のフリーランス及び法人経営者から成る市民団体です。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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