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たかがレイアップされどレイアップ! 日本人選手のシュート能力について考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
Bリーグではどんなシュート場面でも長身選手のディフェンスを受ける(筆者撮影)

競技レベルが向上している3年目のBリーグ

 Bリーグはシーズン3年目を迎え、競技レベルが着実に向上している。リーグ創設当初は元NBLチームと元bjリーグチームの間に明らかなチーム格差があったが、現在は大きく改善され始め、各地区とも熾烈な首位争いが展開されており、さらにリーグとしての魅力を増しているように感じている。

 またリーグの競技レベル向上は日本代表にも波及してきており、FIBAから東京五輪の自国開催出場権を承認してもらうため、『FIBAワールドカップ2019』への出場を勝ち取るべく、アジア2次予選で快進撃を続けているのは周知のところだ。間違いなく日本バスケット界はBリーグとともに発展への道を進み始めている。

気になるBリーグ選手たちの単純なシュートミス

 だがBリーグの取材をしながら以前から気になっていたのが、Bリーグ選手たちの簡単なシュートミスだ。時には速攻からノーマークでシュートを打っているのに外してしまうという、ちょっとプロ選手としては恥ずかしいプレーを目撃してきた。たぶんブースターの人たちの中に同じ思いを抱いている人もいるのではないか。

 かつてNBAも取材した経験上、こうした単純なシュートミスは滅多に起こるものではなかった。時折調子に乗った選手が派手なダンクを決めようとしてミスをするような場面はあるが、ノーマークからの普通のシュートを外すようなことはほぼ皆無といっていい。

 やはり“決めるべきシュート”を普通に決められるのがプロ選手であるべきだ。あくまで自分の印象の域を超えていないが、そうした簡単なミスをするのは外国人選手より日本人選手の方が多いように思う。

専門家から見た日本人選手のシュート能力

 そこで大阪エヴェッサでスキルディベロップメントコーチを務める大村将基コーチに、自分の疑問を投げかけてみたのだが、大村コーチの答えはまさに自分の考えを証明してくれるものだった。

 「日本人にはシュート力がある、シュート能力が高い選手がいます。金丸(晃輔選手)とかあの辺りの選手はNBAとも差がなく(シュートが)入る選手はいるんですけど、僕が今すごく大事にしているのがレイアップなんです。

 今は2ポイントから3ポイントを打つバスケットが主流になってきて、3ポイントを打つのは正直簡単というのは言い過ぎかもですけど、相手が前にいても打てるものは打てて、周りがクリエイトしてオープン(から打つ)というのができるんですけど、レイアップっていうのは速攻ではない限り誰か(マーク)がいてという中でのスキルで、そこの手元のレイアップのスキルというのが日本人選手はないですね。だからポロッとなってしまうんです。

 日本人選手は上からのシュートは上手い選手が多いんですけど、下からとか横からのシュートが上手い選手は少ないですね」

 ここで自分が指摘している簡単なシュートミスというのは、いわゆるリング近くのレイアップのことを指している。だからこそミスが目立ってしまうのだ。レイアップといえば、井上雄彦氏の『スラムダンク』でも“庶民シュート”として最初に登場してくる、バスケット選手にとって基本中の基本のシュートだ。それでも大村コーチは、そのレイアップを日本人選手は苦手にしていると指摘しているのだ。

日本人選手がレイアップを苦手にしている理由

 もちろん日本人選手だけでなく、バスケットを始めプロになった選手たちは嫌というほどレイアップを打ち続けているはずだ。にもかかわず日本人選手が苦手にしている理由は何なのだろうか。

大阪エヴェッサでスキルディベロップメントコーチを務める大村将基コーチ(筆者撮影)
大阪エヴェッサでスキルディベロップメントコーチを務める大村将基コーチ(筆者撮影)

 「元々からそういうシュート感がないですね。最近は高校生の時でも外国人がいるから変わってきているんですけど、その時(育成時代)にどういったレイアップを打つかというスキルを習得できていないというのが日本にはあると思います。

 基本的に日本人選手がシュート練習をしようとなった時に、レイアップを練習する人は単純にそんなにいないです。結局みんな楽というのではないんですけど、3ポイントを打ったりとか、ドリブルからステップを入れて(ジャンプシュートを)打つ練習を10のうち8くらいやって、ちょっと最初軽くレイアップを打つくらいの考えなんです。

 実際バスケットで簡単なシュートはやはりレイアップということになってきて、2ポイントと3ポイントを比較した場合絶対に(試合では)2ポイントの方が多くなってくるはずなのに、そこにフォーカスを置いていないだけです。選手自身にレイアップは簡単なプレーという考えがすごくあるというのが自分の中にあって…。実はそうではなくすごく難しいもので、必ずディフェンスが側にいる中でどうやって打つかというのがあります」

 どうやら日本人選手の多くが、レイアップは簡単なものでシュート練習のアップ程度でいいと考えている傾向にあるようだ。だが大村コーチが指摘するように、本来はレイアップは技術がいる難しいシュートで、バリエーションも豊富なものだ。普段からしっかり練習していなければ、実戦で簡単に決められるものではない。

ジュニア期から積極的に取り組むべきレイアップの技術

 特にBリーグのようにフロントコートに長身の外国人選手が揃っているような環境では、そうした外国人選手のディフェンスをかいくぐりながらシュートを決める技術が求められる。さらに長身選手ばかりが揃う国際試合では尚更のことだ。時にはリングを直接狙うのではなく、バンクショット(ボードに当ててからリングに沈める)やリバースショット(攻めた方向とは反対方向からシュートを打つ)などを狙わなければならない。本来ならレイアップの練習を行うだけで相当の時間を要するものなのだ。

 大村コーチによれば、米国人選手やフィリピンの選手たちは小さい頃から路上バスケットなどで1オン1や3オン3などを経験し、身長の高い選手を相手にしながらどんどんアタックすることで自然とレイアップのスキルを身につけているのだという。そうしたスキルを習得するにはプロ選手といえども近道はなく、反復練習を繰り返していくしかないそうだ。

 こうしたスキルを体得するのは早ければ早いほどいいはずだ。それではジュニア期からどんな練習に取り組むべきなのか。その辺りについても大村コーチに確認してみた。

 「やはりアウトナンバーの練習が一番いいです。2対1、3対2とか4対3という…。レイアップにいく時は速攻の1対0以外は相手選手を見ながらどうやって打つのかという判断が必要になってきます。うちの練習でも必ず2対1、3対2から入っていきます。そのアウトナンバーからどうやってレイアップを決められるようになるかというのが凄く重要です。すごく単純で、面白くないんですけど、それをジュニア期はしつこいくらいやった方がいいと思います」

 大村コーチは「レイアップが一番難しい」と断言する。Bリーグに限らず日本バスケット界でレイアップの重要性を再認識してみるべきなのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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