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DeNA助っ人右腕も認める阪神入りしたエフレン・ナバロの実力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
エンゼルス時代から一塁の守備に定評があったエフレン・ナバロ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 阪神は6月17日、新外国人選手のエフレン・ナバロ選手(本欄では「ナバーロ」ではなく発音に近い「ナバロ」で表記します)の入団会見を実施した。ネット配信で縦縞のユニフォームに袖を通し笑顔を見せているナバロ選手の画像を目にして、ようやく彼が夢を実現させたことに感慨すら覚えた。

 実はナバロ選手とは個人的に10年近くの付き合いがある。彼との出会いはカリフォルニア州コンプトンにあるMLBの『Urban Youth Academy』だった。現役時代の木田優夫投手が同施設で自主トレを行うようになったのを機に、様々な日本人選手たちが利用することになっていったことで、同施設のスタッフと親交があったこともあり、取材以外でも公私ともによく訪れるようになっていた。

 同施設は日本人選手ばかりではなく、近隣に住む若手マイナー選手が集まってオフの間は自主トレを実施する場所でもあった。その中の1人にナバロ選手がいたのだ。最初は同じグラウンドにいながら挨拶程度の関係だったが、徐々に日本人選手たちと交流していくことで会話も増えていった。そうした関係が毎年のように続いていたのだが、自主トレに参加する選手たちの顔触れは毎年入れ替わっていた。若くして解雇され野球を続けられなくなったためだ。そんな中で常に顔を合わせていたのがナバロ選手で、自然と彼との交流は深くなっていった。

 2011年に高橋尚成投手がエンゼルス入りし同チームのキャンプ取材に回った際、ナバロ選手が招待選手としてメジャーキャンプに参加していることを知り、思わず彼に祝福の握手とハグを求めていた。それほど嬉しい出来事だった。彼はその年にメジャー初昇格も果たしており、その場に立ち会うこともできた。翌年から背番号は「19」に変更され、チームからも期待されている存在だと感じることができた。

 高橋投手がチームを去り自分もエンゼルス取材から遠ざかっていくようになったが、それでもナバロ選手と顔を合わす度、お互いに近況報告する関係は続いていた。今だから明らかにできるのだが、当時からナバロ選手は「日本でやりたい」という言葉を口にしていた。2012年から破格の10年契約で同じ一塁のアルバート・プホルス選手がチームに加わり、なかなかメジャーに定着できない状態が続いていたことも影響したのだろう。だが当時の彼は40人枠入りしている選手であり、日本行きは簡単なことではなかった。

 その後外野手にコンバートされたりもしたのだが、結局一度もフルシーズンを通してメジャーに定着できないまま2015年シーズン終了後にエンゼルスから解雇され、その後はチームを転々としてきた。あくまで個人的な感想ではあるが、ナバロ選手の打撃は残念ながらメジャーでは「帯に短したすきに長し」状態だった。全方向に打ち返せる堅実なバッティングである一方で、一塁手、外野手としてはあまりに本塁打が少なかった。さらに特別に足が速いわけではなく、どうしても他の一塁手や外野手と比較すると多少見劣りする存在に思えてしまうのだろうと考えた。

 だからといって極端に長打力が劣るわけではない。マイナーリーグの通算長打率は.411が示す通り、本塁打こそ少ないが長打は狙えるタイプなのだ。さらに少ないとはいえ、マイナーリーグで通算69本の本塁打も記録している。そんな観点からナバロ選手はずっと“日本向き”な選手ではないかと考えていた。入団会見でも話題になっていたようだが、マイナーリーグでの通算本塁打46本、通算長打率.450のマット・マートン選手と同タイプの選手といえるだろう。

 つい最近そんな自分とまったく同じ考えの人物がいることがわかった。DeNAに所属しているスペンサー・パットン投手だ。奇しくもナバロ選手が入団会見を実施したその日、自分は京セラドームでパットン投手と1年ぶりの再会を果たし旧交を温めていたのだが、その中でナバロ選手の話題が登場したのだ。パットン投手は数年前にメキシコのウィンターリーグでナバロ選手と一緒になり、別の選手を介してプライベートで食事に出かける間柄になっていたらしい。そんな彼がナバロ選手について以下のように話してくれた。

 「彼は全方向に打ち分けることができるバッターだ。日本でもしっかり打てると思う。決してパワーがないわけではなく、野手の間に鋭い打球を打つことができる。確かに本塁打を量産するのは難しいとは思うけど、セ・リーグの球場は狭いから、ある程度は期待できるんじゃないかな。一塁の守備も素晴らしい。もしメジャーで1年間プレーできていたら、間違いなくゴールドグローブ賞を狙えていたと思う」

 シーズン途中の加入でチームからの期待が大きい反面、投手を含めた日本野球の準備期間は無しでぶっつけ本番で臨まなければならない。ナバロ選手にとって決して理想的な環境ではない。だがようやく掴んだチャンスをしっかり生かしてほしいし、それができる実力はあると信じている。

 最後にナバロ選手に会ったのは昨年3月のWBCメキシコ・ラウンドだった。今度再会できる機会があれば、また握手とハグでお祝いしてあげたいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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